山万ユーカリが丘線の“魔改造”にチューモーク！

食券タイプの新型券売機とQRコード乗車券。

　ユーカリが丘線の詳細は、2022年5月29日（日曜日）掲載の「3600形ターボくん＆こあら号で行く！　山万ユーカリが丘線車両基地見学ツアー」を御参照いただくとして、起点のユーカリが丘駅は1階に「山万マイホームセンター」という不動産屋を構える。鉄道の駅では異色で、2階はきっぷうりばと改札、3階は1面1線のプラットホームという構造。

　2階に行くと、昭和の雰囲気が漂いつつ、若干様変わりした。2024年6月15日（土曜日）から、乗車券をQRコードつきに更新。そして、我が国初の顔認証乗車システム、「ユーカリPASS」（顔認証は専用サイトでの登録が必要。支払いはクレジットカードを持つ人に限る）をユーカリが丘線と、こあらバス（山万コミュニティバス）で実用化に踏み切ったのである。

　当初、QRコード乗車券と顔認証乗車システムは、普通乗車券と通勤定期券のみだったが、11月1日（金曜日）からすべての乗車券にも適用された。詳細は後述を御参照いただこう。

　これに伴い、食券タイプの券売機を1台設置した。乗車券（大人200円、小児100円の均一運賃）のほか、回数券（大人2000円、小児1000円。ユーカリが丘駅と公園駅のみ発売で、3か月有効）、1日乗車券（大人500円、小児250円）、2日乗車券（大人800円、小児400円）を購入できる。従来の券売機は千円札までしか使えなかったが、食券タイプの券売機はすべての紙幣が使える。ただし、交通系ICカードは、こあらバス（山万コミュニティバス）も含め、引き続き使えない。

　役目を終えた従来の券売機2台は電源オフの状態で残る。1台はカバーをかけて、食券タイプの券売機を利用するよう案内。もう1台は食券タイプの券売機が目の前に設置された。新旧の券売機は各駅でも見られる。

ユーカリが丘線の自動改札機は基本的に1か所を除き、“魔改造”。

　QRコード乗車券は、2013年1月14日（月曜日・成人の日）のスカイレールサービス（現在は鉄道事業から撤退）を皮切りに、2014年10月20日（月曜日）に沖縄都市モノレール、2015年10月1日（木曜日）に北九州高速鉄道も続く。

　4番目の導入となった山万は自動改札機を更新せず、旧来のバーつきのまま、“魔改造”を施した。磁気券の投入口をステッカーでふさぎ、その付近にQRコード乗車券用の認証機を設置。バーには顔認証乗車システム用のタブレット端末を設置した。一定時間の利用がないと閉まる、もしくは不正乗車防止用の扉は常時開放され、付近に防犯カメラを設けているので常時監視する。これにより、“魔改造”の自動改札機は、QRコード乗車券と顔認証乗車システムの両方をこなす“二刀流”なのだ。

　下車する際、QRコード乗車券（定期券、1・2日乗車券を除く）は、磁気券投入口付近に設置された「QR乗車券回収箱」に入れる。顔認証乗車システムは入場時に確認が取れているので、そのまま通過する。

　ユーカリが丘駅の場合、3・4番機は入出場兼用、2番機は出場専用（出口専用）、1番機は未改造のまま閉鎖され、稼働しない。というのも、山万は2024年10月31日（木曜日）まで、通学定期券、1・2日乗車券、回数券、各種割引乗車券、シニアパスは磁気券の発売を継続したからだ。

　定期券の新規は有効開始日の7日前、継続は有効開始日の14日前まで購入可能ながら、通学定期券の利用が年度（学年）をまたがる場合、有効期間は「翌年度の4月30日まで」と定められていることから、2025年4月30日（水曜日）までに磁気券の使用が終了したものと考えられる。

　ちなみに1番機はかつて、顔認証乗車システムの実証実験が行なわれた。

国内の鉄道で左利きの人が使いやすい改札は「初」の事例と思われる。

　券売機、自動改札機、冷蔵庫などの電化製品は、右利きの人が使うことを想定しており、左利きの人にとっては使いづらいようである。

　山万は地区センター駅、公園駅、女子大駅に限り、QRコードの認証機、顔認証乗車システム用のタブレット端末を左側に配した。左利きの人にとっては、QRコード乗車券が使いやすいと思う。中学校駅の4番機を除き、自動改札機同士が接着の状態であることが大きいのではないだろうか。

　また、中学校駅を除き、未改造自動改札機1か所を閉鎖した（中学校駅の未改造自動改札機は撤去された模様）。ユーカリが丘駅の2番機を除き、入出場兼用としている。同じ時刻に入場する人、出場する人がおらず、駆け込み乗車もないので、合理化かつ効率化を図ったのだろう。メンテナンス作業の負担軽減を図ることで、経費の節減にもつながる。

佐倉ユーカリが丘郵便局の風景印。

　先述の券売機も含め、駅自体が“魔改造”と化している。新交通システムでは現役唯一、中央案内軌条式のVONA(ボーナー)（Venicles Ot New Age：新時代ののりもの。ユーカリが丘線は無人運転車両ではないため、厳密には「VONA-one」と称す）のため、設備更新などに多額の費用を要することは想像に難くない。2023年度、鉄道事業の営業費用は2億9200万円に対し、営業収入は2億200万円で、9000万円の赤字を計上。以前より慢性的な赤字が続いており、ユーカリが丘線の運営に厳しさが増している。

「ユーカリが丘線は永久に不滅です」にするには、乗ることに限る。

　起点のユーカリが丘で1日乗車券を購入し、乗ってみる。ユーカリが丘線は全線単線、鉄道では珍しい循環運転で、ユーカリが丘―女子大―中学校間は下り線、中学校―井野―ユーカリが丘間は上り線としている。1つの列車で下り線と上り線の両方を走行し、なおかつ、進行方向が同じである。地区センター、公園は上下線の列車が発車するのに対し、ユーカリが丘、女子大は下り列車のみ、中学校と井野は上り列車のみ発車する。

　車両の1000形は関東地方唯一の非冷房車。車内は送風のラインフローファンが作動し、可能な限り涼しい空間にしているが、窓を開けて風を入れないと過ごしにくいようである。

　公園で下車。文字通り、“いこいの場”に隣接している。また、沿線唯一の郵便局、佐倉ユーカリが丘郵便局があり、平日だと旅行貯金や風景印収集といった“ゆう活”（郵便局をめぐる活動）ができる。特に風景印は1000形のイラストがあり、“地域の象徴”を表す。

　軌道は高架から地平に変わる。新交通システムの営業線で、地平を走行するのはユーカリが丘線のみ。レアな体験ができる。

　女子大は駅前に車両基地があり、1000形と、こあらバスの留置車両を眺めることができる。

　中学校―井野間は住宅地のあいだを進んでいき、新交通システムでは初のトンネルに入る。この区間は昼間でも前部標識灯（前照灯）を点灯して走行する。沿線は現在も宅地の建設が進められているほか、こあらバスの停留所もあり、利便性の強化を図った。

　井野を発車すると、再び高架となり、公園に戻り、ユーカリが丘に向かう。

　1000形の前面は片側に機器類を搭載しているため、フロントガラスは運転台部分のみ配したこと、乗務員室の後ろにロングシートを配したこともあり、前面展望は周囲の乗客に迷惑をかけない範囲ならできるだろう。注目は乗務員室に走行距離計があることで、鉄道車両では大変珍しい。私が乗車した1000形『こあら1号』は1980年12月の登場から、取材日まで83万2700キロ以上を走行した。

　沿線の住民などに迷惑をかけない範囲で、ユーカリが丘線を1日、もしくは2日、楽しんでみてはいかがだろうか。

ユーカリが丘線の車両基地は、こあらバスの車庫も兼ねる。

　一方、2020年11月7日（土曜日）に運行を開始した、こあらバスの本数はユーカリが丘線より少ないものの、私が見た限り、乗客は少ないながら、高齢者の需要が高い模様。冷房つきなので、快適性が高い。運賃もユーカリが丘線と同じ、大人200円、小児100円である。

　2025年3月1日（土曜日）から、「勝田台ルート」と称する勝田台1系統山万勝田台循環線を新設し、宮ノ台6丁目―勝田台駅入口間を約20分で結ぶ。この系統のみ運賃は大人260円、小児130円で、割高感もない。さらに、定期券を購入すると、ほかの路線バスやユーカリが丘線にも乗車でき、“おトク感”も高い。

　参考までに、京成電鉄本線のユーカリが丘駅は通勤特急、快速、各駅停車が停車するのに対し、勝田台駅は快速特急、特急も停車するので、利便性も高い。さらに、勝田台駅入口停留所は、東葉高速鉄道東葉勝田台駅の連絡通路まで徒歩30秒だという。東葉高速鉄道は全列車始発、東京メトロ東西線の直通運転を基本にしており、“常に坐れる列車”で都心方面へ向かうことができる。京成電鉄にとっては、“脅威の路線バス”になりそうだ。

山万ユーカリが丘線 THE MOVIE

3600形ターボくん＆こあら号で行く！　山万ユーカリが丘線車両基地見学ツアー THE MOVIE

参考までに、山万ユーカリが丘線と同じ「VONA」を採用した桃花台新交通の動画です。