選手とファンによる勝利の儀式「WE ARE」で、スタンドに呼び掛ける鈴木=QVC

 マリーンズの勝利を告げる試合終了のアナウンスが流れると、鈴木大地内野手は、声を掛けた選手たちを連れてライトスタンドに走り出した。「マリーンズ、勝ちました!」。拡声器片手に勝利の喜びをスタンドのファンに伝えた。そして「WE ARE」と3回、連呼。最後に選手たちが肩を組み、「CHIBA LOTTE!」と何度も叫びながら、飛び跳ねた。スタンドを見渡すと、ファンの人たちも横の人たちと肩を組み、勝利の喜びを分かち合ってくれた。3月25日、ファイターズとの開幕戦から始まった本拠地マリンでの勝利の儀式。今シーズン、マリンでの勝利ゲーム全試合で行い、選手とファンによる「WE ARE」はマリン名物として、すっかり定着した。それはキャプテンのファンと一体になりたいとの強い思いから始まった。

 「勝利を共有して、みんなで楽しむ。一緒に飛ぶことで、より一体感が出たと思います。楽しかったし、自分はやって良かったと思っています」

 シーズンも終わり、誰もいない静まり返ったスタンドを見渡しながら、鈴木は充実した表情を見せ、しみじみと話しだした。最初は不安でいっぱいだった。ファンが受け入れてくれるだろうか。仲間たちは一緒にやってくれるだろうか。そもそもイメージ通りにうまくできるのだろうか。ただでさえ、キャプテンとしてチームをまとめる重い任務を背負っていながら、背番号「7」は自ら率先して動き、新たな挑戦をすることを決めた。

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 あれは、毎年2月に石垣島での春季キャンプ中に行われる選手会と球団とのミーティングでのことだった。今年もそこで大まかなファンサービスの内容が議論された。開幕セレモニーやシーズン中イベントの概要など一通りの議題が終わった時、話題は「WEARE」になった。元々、昨年の2015年シーズンに球団側の提案を選手側が組む形で試験的に数試合、行った。ただ、過去にプロ野球ではやったことがない試みということもあり、チーム全体的に戸惑いを感じさせる雰囲気があった。それは受け取るスタンドのファンも感じていたはずだ。

 継続するか、同じような趣旨でなにか新たな事に切り替えてチャレンジするか。意見は分かれた。「戸惑いながら、照れながら行っていてはファンも喜ばない。無理して続けるより、ここは一回、方法を考え直すのが手かもしれない」。一人の球団職員が意見をした。一時は、その方向で話がまとまろうとした。その時、鈴木が手を挙げた。「ちょっと、待ってください」。会場にいた全員が主将に注目をした。静かに立ち上がるとキッパリと言った。「続けましょう。続けたいです。せっかく、ファンとの方と一体になるように、なにかできないかと考えて試みたことをあっさり止めてしまうのは、ボクはどうしても嫌です。僕が率先して、その日、乗り気な選手を連れて、中心になってやりますので、続けましょう」。少しの沈黙が続いた。今度は球団職員が話し出した。「続けてくれるという積極的な意見はありがたいし、大変うれしい。大地(鈴木)が率先して行ってくれるという姿勢は助かる。ただ、それをシーズン途中で止められたり、今日はやらないという日があっては困る。時には大地が体調の悪い日もあるかもしれない。勝ったけれど、キミ自身はミスをしたり、チャンスの場面で凡退をして出たくないようなこともあるかもしれない。それでもやってくれるのかな?」。建設的な意見ではないが、それは事前にしっかりと意見を酌み交わさないといけない大事なことだった。長いシーズン、なにが起こるか分からない。いい時もあれば、必ず悪い時もある。予期もしないマイナスな出来事も多数、発生するものだ。夏場は疲れがドッと出る。もしかすれば、率先して勝利の儀式を行う鈴木が試合に出れずにベンチを温める日があるかもしれない。それでも勝ったら、中心となって元気よくライトスタンドに行ってくれるのか。その覚悟を最初にハッキリと問う必要は確かにあった。「もちろん、行きます。ファンの方に喜んでもらうために絶対にやります。昨年みたいな特定の何試合か限定ではなく、ボクは全試合やります!」。キャプテンの心は固まっていた。ブレることが絶対にない強い信念に会場にいた全員が圧された。こうして、本拠地マリンで勝利した試合では、選手たちが自分たちで人選をして、率先してライトゾーンまで走り、勝利の儀式を行うことが決まった。

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 「ボクにとっては誇りです。あれは他球団にはないこと。ファンの方々と僕たちが勝利の喜びで一つになれる瞬間だった。もちろん、ミスをしたり、調子が悪くて悩んでいる日もありました。特に今年は自分自身の思い通りの結果がでなくてつらいこと、悔しいことが多かった。雨の日もあった。それでも、外野に行って一緒に飛び跳ねていると、不思議と気持ちが晴れやかになったんです。それにあの時、『ボクは絶対に行く!』と約束をした。ファンの方から直接、意見を聞いたわけではないので、なんともいえませんが喜んでくれたのではないかと信じています。ボクはあの時、『やりたい』と意見をして本当に良かったと思っています」

 マリーンズは今年、本拠地で38勝をした。だから、38回、「WE ARE」をした。最初はぎこちない部分もあったが、徐々に形ができた。スタンドではファンが肩を組み、飛び跳ねた。グラウンドでは選手たちが拡声器でスピーチをして率先して喜びを表現してくれた。その中心にいたのは間違いなく背番号「7」だ。どんな時も試合後、ベンチで選手たちに呼び掛けを行い、楽しいムードをつくり上げてくれた。12球団でマリーンズにしかない誇れる勝利の儀式。それはキャプテンが魂を込めて作り上げたイベント。みんなでマリーンズの勝利ということに、心が一つになれる最高の瞬間だった。

 (千葉ロッテマリーンズ広報 梶原紀章)

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