プロ初登板勝利を挙げて、お立ち台で笑顔を見せる佐々木=6日、ZOZOマリン

 なかなか眠りにつくことができなかった。いろいろなことが頭を駆け巡った。不安、プレッシャー。注目のドラフト1位・佐々木千隼投手はプロ初先発前夜、真っ暗な部屋の中で自分と向き合っていた。登板前夜に眠れない。そんな経験は初めてだった。

 「キャンプ、オープン戦と思う通りにいかなかった。だから不安でしたね。結果を考えて…。もう不安しかなかった」

 キャンプ、オープン戦と頭をひねる光景が目立った。口数もだんだん減り、表情からは明るさが消えた。それでも5球団競合の末、獲得をした黄金ルーキーの一挙手一投足をマスコミは追い続けた。佐々木の存在が注目を集めるようになったのは大学4年ぐらいから。毎日、カメラを向けられ取材を受けることに慣れていない若者は、自分を見失いそうになった。

 「なにをするにしても、見られているし、報道される。そんな経験は今までなかったですから。ブルペンではカメラに撮られていることを意識してしまった。いい球を投げないといけないって…」

 今までと違う環境に戸惑い、なかなか調整がうまく進まなかった。フォームは理想とするものには程遠かった。ストレートはイメージしているボールがなかなか投げられない。自信を持っていた制球も思い通りに決まらない。少しずつは光明を見出していたものの万全とは程遠い中でのデビュー戦だった。

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 悩み苦しむ姿にチームメートたちは、それぞれの形で気を紛らわせようとしてくれた。ロッカーでは隣に位置するエースの涌井秀章投手はあえて野球の話はしなかった。「アドバイス?そういうのはしていない。世間話ばかり」と言うように、野球でいっぱいになっている頭を和ませてあげようと、いろいろな形で話し掛けてくれた。「登場曲はオレが考えてあげるよ。先発がマウンドに向かう時をファンは期待をして見ている。だから曲はカッコいい方がいい。前奏が大事かな」。毎日が精いっぱいで出ばやしとなる登場曲を決めるという発想もなかった。数日間、時間をかけてチームの大エースはネットなどでいろいろと探してくれた。デビュー戦の3日前、「決まったよ」と言われた。複数の候補があった中から真剣に悩み選び抜いて決めてくれた。SMAPの「オレンジ」だった。特に理由はなく「雰囲気がカッコいいから」とニコリとほほ笑んでくれた。そんな先輩の気遣いがうれしかった。こんなこともあった。4月4日の本拠地開幕戦の始球式に登場した女優の土屋太鳳さんが初登板を目前に控えたルーキーの佐々木にエールを送ったという記事が載っていた。そこには「素晴らしい船出となりますよう、応援しています。踏ん張ってください」というコメントが紹介されていた。涌井は球場につくと、そのことを佐々木に伝えた。

 「朝、起きて記事を見て、『頑張ってください』はよく聞くけど、『踏ん張ってください』なんて珍しいなあと思った。だから球場に行ってから、佐々木に伝えた。そういうことだから、どんなことがあっても踏ん張れよって」

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 偉大な先輩との日々の会話の積み重ねの中で硬くなっていた気持ちを解してもらった。昨年、日本一になったファイターズ打線相手に5回を投げて、被安打3、1失点で初勝利。ヒーローインタビューに上がる佐々木はどこか安堵(あんど)の表情を見せた。ウイニングボールを大事そうに握りしめながら、しみじみとここまでの日々を振り返った。

 「プロ初勝利はやはり特別ですね。今までの野球人生の中で一番、特別。アマチュアとプロってこんなに気持ちが違うものなのですね。初勝利で気持ちは少しだけ楽になりました」

 初勝利の翌日。練習のため、グラウンドに出ると、涌井がストレッチをしていた。特に声は掛けられなかった。ただ、右手を差し出された。握手ではなく、グータッチで喜びを分かち合ってくれた。選手やスタッフ、いろいろな人が声を掛けてくれた。携帯にはメールやLINEなどで100件以上のお祝いのメッセージがあふれていた。高校、大学時代のチームメートや指導者。それに両親や2人の兄からも届いていた。「プロで勝つということはこういうことなんだなあ」。佐々木はしみじみと思った。

 まだまだ本領発揮とはいっていない。プレッシャーや不安を拭えるほどの自信はない。ただ、いろいろな人に見守られ、支えられているという温かい気持ちを感じるようになった。だから精いっぱい、全力で投げる。若者は人のぬくもりを感じながらガムシャラに腕を振り、毎日を生きている。4月6日、初勝利の夜、千葉の桜は満開に咲き誇っていた。

 (千葉ロッテマリーンズ広報 梶原紀章)

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