ブルペンで投げ込み、着々と腕を磨く

 そのことを本人は知らなかった。聞いたのは年が明けて、石垣島での春季キャンプに入ってからだった。西野勇士投手は少しだけうれしそうな面持ちを見せたが、すぐにいつもの冷静な表情に戻った。「そんなことがあったのですか?知りませんでした」。かすかな笑みを浮かべ、すぐに投球練習のためブルペンへと向かった。

 昨年9月23日のイーグルス戦(QVC)。西野は投球時に左足に打球を当て、亀裂骨折。登録抹消となり、その後のシーズンを棒に振った。ファイターズとのCS第1ステージ(札幌D)、そしてホークスとのCSファイナルステージ(福岡ヤフオク!D)は自宅でテレビ観戦を余儀なくされた。それまで守護神として試合の最後を任され続けてきた。試合の勝利を決める大事な局面。やった人にしか分からぬ重圧を背負いながら、つながれた勝利のタスキをしっかりと受け取り、仕事をこなしてきた。昨シーズン、セーブシチュエーションでの失敗はゼロ。絶対的な安定感がチームをクライマックスシリーズへと導いた。しかし、その立役者は華やかな舞台を目前に控え、骨折という形で姿を消す。その無念を同じようにプレッシャーのかかる場面で登板を重ねてきたセットアッパーの仲間たちは、気遣い、行動に出た。

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 「アイツのユニホームをクライマックスシリーズに持って行こう!そして日本シリーズ進出が決まった時にはスタンドに向かって、そのユニホームを目立つように掲げよう」

 時間がたった今となっては誰が言い出したのかはハッキリとしなくなっている。ただ、中継ぎ陣の間で自然発生的に出たアイデアだったといえる。「一番悔しいのはアイツ。だから、せめてユニホームだけでも遠征に持っていって、一緒に戦おうと思った」。6年連続で8度の手術を乗り越え、けがでの戦線離脱のつらさを誰よりも知る内竜也投手はその時の思いを語った。シーズン中、いつも西野のキャッチボールの相手を務め、中継ぎ陣のリーダー的存在である大谷智久投手も同調した。「けがをしていなかったら、セーブ王のタイトルを取れる可能性もあった。つらいだろう」。みんなが同じ思いだった。西野のロッカーからビジターユニホームを1着持ち出すと、球団にお願いをして遠征用のトラックの中に詰め込んだ。「アイツのために勝とう。日本シリーズには復帰できる。もう一度、マウンドに戻って来てもらおう」。一年間、一緒に戦ってきた仲間たちは、それぞれで誓い合って札幌、福岡と続くCSの戦いへと向かった。

 「ボクも日本シリーズに照準を合わせて急ピッチでリハビリをしていました。クライマックスシリーズのファイナルステージの頃には2軍で投球練習も再開していた。気持ちは高ぶっていました。みんながそんな思いで戦ってくれていたことはまったく知らなかった」

 チームメートが強い思いで戦っている時、西野もまた登板の日を信じ、ロッテ浦和球場のブルペンで捕手を座らせ、臨戦態勢に入っていた。ホークスに3連敗を喫し、残念ながらみんなの思いが形になることはできなかった。しかし、ブルペン陣の、仲間を思う団結力は2016年のマリーンズでも健在だ。「ウチのブルペンは本当に雰囲気がいい。昨年も『西野のためにも日本シリーズに出るのだ』という思いで、みんなが一つになった。それはうれしいし、今年につながるはず」。石垣島キャンプで投手陣の仕上がりをチェックする落合英二投手コーチも目を細める。

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 傷が完全に癒えた西野もブルペンで存在感を見せている。オフの間に体を一回り大きくし、84キロほどだった体重は89キロに達している。目指すは、さらに絶対的な守護神。そのためにストレートにさらに磨きをかける作業を行っている。

 「みんなで力を合わせて勝ちたい。優勝がしたい。去年は絶対に抑えに失敗をしないと自分で自分にプレッシャーをかけてやっていたけど、今年も自分の中でいろいろな目標を持って一年間戦いたい。最後まで投げたい」

 まだ知らぬ優勝の味。栄光の瞬間を自分のことを気遣い、信じてくれる仲間たちと分かち合いたい。西野は新たなシーズンへの思いをはせる。石垣島の空はきれいに青く晴れ渡っていた。その空の下で、マリーンズの投手陣は汗を流す。励まし合い、笑い合いながら、体を動かす頼もしき面々。今年も全員で勝利のタスキをつなげてみせる。

 (千葉ロッテマリーンズ広報 梶原紀章)

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