通算2千安打を達成し、松井(左)から花束を受け取る福浦=9月22日、ZOZOマリン

 「福ちゃんに話さないといけないことがあるんだ」。9月中旬のとある日、福浦和也内野手は同じ年で仲のいいライオンズの松井稼頭央外野手から食事に誘われた。久々の食事の場。親友は席に着くや今季限りで引退する話を切り出した。

 「いきなり深刻な表情で言われたからね。覚悟はしたよ。この年までお互い励まし合いながらやってきた。デビューしたのは稼頭央くんが先で三拍子そろった選手として活躍する前から有名だった。オレとは全然、格の違う選手。ずっと、なんとか追いつけるようにとその背中を追い掛けてきた。ベテランと呼ばれる年になって、同じ年の選手たちがどんどん辞めていく中で刺激を受け合いながらやってきた。それだけにショックだったね。寂しい想いだった。心にポッカリと穴があいたような気分だった」

 この時点で福浦は通算2000本安打の偉業まであと4本と迫っていた。9月15日からはZOZOマリンスタジアムでの本拠地8連戦。8連戦の最後を締めるのは松井の所属するライオンズ3連戦だった。松井は出場登録を抹消されていたものの、チームに帯同し続けていた。だから心の中でひそかに照準を合わせた。
 「ライオンズ戦で、稼頭央くんの前で2000本安打を打ちたい。誰にも言っていなかったけど、自分の中では、そう決めていた。引退する稼頭央くんの目の前で打ちたいとね」

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 5試合を終えて残り2安打としライオンズ3連戦に突入した。8連戦7戦目の9月21日に1安打を放ち、9月22日のライオンズ戦を迎える。これが友の目の前で偉業を達成するラストチャンス。そしてチームはここから遠征に突入するため地元で記録を決めるためにも、残り1試合で絶対にヒットを記録しないといけなかった。
 しかし、安打はなかなか出ない。中飛、遊飛、四球で試合は終盤の八回まで進んだ。先頭打者として巡ってきた4打席目。この日の最後の打席になるかもしれない場面でライオンズはマウンドに4番手として左の小川龍也投手を送り出した。

 外角へと逃げていくスライダー。狙ったわけではなく必死に食らいついて、バットを合わせた。打球は低い弾道を描き、芝の上で跳ねた。右翼手が打球処理まで時間を要するのを確認すると、躊躇(ちゅうちょ)なく二塁を陥れた。最後は足から滑り込み、偉業は達成された。ベース上で両手を掲げ、大声援に応えた。すると三塁側から大きな花束を手にうれしそうに駆け寄ってくる友の顔があった。サプライズ演出だった。

 「ベンチ入りしていなかったのでどこかで見てくれてはいると思っていたけど、まさか花束を持ってグラウンドまで駆け付けてくれるとは想像していなかった。ビックリした。でも本当にうれしかった」

 抱き合った。18歳から42歳のこの日まで一緒にプロ野球で切磋琢磨(せっさたくま)しながら戦ってきた。2人にしか分からない想いがあった。「おめでとう」「ありがとう」。交わしたのは他愛もない言葉だが、その中にはいろいろな想いが詰め込まれていた。わずかな時間が無限に感じられた。

 「ライオンズ戦で稼頭央くんの前で打ちたいとは思ってはいたけど、本当にそうなるとはね。8連戦の最後で、もしかしたらこの日の最後の打席になるかもしれないという場面で達成できたのはなんか信じられないよね。稼頭央くんの顔を見た時に、いろいろな思い出が脳裏をよぎった。彼がいたから今の自分はいる」

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 それから4日後の9月26日に松井は正式に引退を発表し、翌27日に引退会見が開かれた。その模様を背番号「9」は寂しげな表情で見つめていた。福浦は現役続行を決めた。

 「本拠地で2000本安打を達成した時の大歓声が忘れられない。オレはここで優勝がしたい。やり残したことがある」

 シーズンオフは秋季練習参加が免除された福浦だが連日、誰もいないZOZOマリンスタジアムに足を運び、ウエートで汗を流している。偉業は達成されたが、いまだ闘志は衰えない。先にユニホームを脱いだ友の想いを背負いながらバットを振る。まだ見せたい感動がある。

(千葉ロッテマリーンズ広報 梶原紀章)

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