CSファーストステージのソフトバンク戦で、肩を落としベンチに戻る鈴木=ヤフオクドーム

 目をつぶると、その光景が鮮明に浮かび上がる。時にそれはスローモーションで襲ってくる。あれから、まだ1カ月も経っていない。しかし、その場面はいったい何度、頭の中を駆け巡っただろうか。キャプテン3年目で迎えた鈴木大地内野手の2016年シーズン。「伊東監督を胴上げする」と誓い、闘った日々は10月9日、福岡でのCSファーストステージ第2戦で早々についえた。そして、その敗戦の中で自身もミスをした。試合後の鈴木は肩を落とした。誰から声を掛けられても、反応をすることができなかった。ひたすら自分を責め、そのプレーを悔やんだ。

 「押せ押せムードをボクのバント失敗で止めてしまった。あの試合の流れを変えてしまった。悔しいという言葉で表現するのは簡単すぎる。それくらいのプレーだった」

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 束の間のオフを挟んで、マリンでの秋季練習が始まっても、どこか元気のないキャプテンの姿があった。まだ、自分を責め続けている。そんな背中だった。練習が終わり、グラウンドに誰もいなくなっても汗を流し続けた。秋が深まり、すっかり日が沈むのが早くなった。少し暗くなったグラウンドで深くため息をついた。

 0勝1敗で迎えたCSファーストステージ第2戦。負ければシーズン終了の試合は初回に清田育宏外野手の先頭打者本塁打で幸先よく先制した。二回も先頭のナバーロが右前打で出塁。鈴木に打席が回ってきた。サインは送りバント。その初球。インコースに来た直球に少し避け気味になりながらバットを合せてしまったことで、ボールは一塁側ファウルゾーンに飛び上がった。フライアウトを覚悟するほど、ポンと打ち上がった打球だった。が、なんとか相手捕手が捕球をすることができず、難を逃れた。気持ちを切り替えて臨んだはずの2球目。今度は少し外寄りの高めストレート。球威に押し負け、ボールは力なく捕手のちょうど目に前に打ち上がっていった。痛恨のバント失敗だった。

 「ボールが上がった瞬間のことを忘れることができません。あの時は1球目の内角に来た残像が体に残ってしまった。本当はしっかりと踏み込んでバントを試みないといけないのに、(インコースの残像が残っていたことで)体が踏み込んでいけずバットと離れる最悪の形になってしまった。だから、あんな結果になった。初歩的なこと。今年はすべてのことを丁寧にしようと心がけていた。それなのに、守備も含めて今年は平凡なミスが多かった。悔しい」

 このゲーム、結果的に初回の1点しか奪えずに負けた。マリーンズは序盤に何度かチャンスを迎えたが、攻めあぐね無得点。立ち上がりに苦しんでいたホークスの先発・バンテンハークに立ち直らせるキッカケを与え、敗れた。そして最後の打者も鈴木だった。ホークスの絶対的守護神・サファテの前に空振り三振。2016年シーズンは幕を下ろした。

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 悩み、苦しんだシーズンだった。143試合にフル出場を果たして、打率・285(リーグ10位)、6本塁打、61打点。それでも「打率3割を超える成績でチームを引っ張り、優勝をする」と自分自身で高い目標を掲げていた若者は、いつも自分と闘っていた。夏場まで打率は3割を超えていたが、「まだまだ得点圏で打てていない。ファンの期待に応えられていない」と、どこまでも自分を責めながら挑む日々を続けた。それは周囲の期待の高さを誰よりも感じていたからこその重圧。人一倍責任感の強い男はどんどん自分を追い込み、心を痛め、苦しめていた。

 「正直、球場に行くのが嫌だなあと思えるシーズンは初めてでした。グラウンドに出るのが怖いと感じたこともあった。夜寝て、あまり寝つけなくて、野球のことを考えていたら、もう朝になっている。そんな日々でした」

 支えとなったのは家族であり、ファンだった。妻は悩める夫に寄り添ってくれた。「家庭に野球は持ち込まない」が信条だったが帰宅して、つい弱音を吐いたことが今シーズは何度かあった。そのたびに優しく励ましてくれた。そしてスタンドのファン。「ふがいない自分にブーイングをされると覚悟をしていた」と言うが、打席に立つといつも温かい声援をくれた。罵声を受け入れる準備はできていた。「それは当然」と思っていた。しかし、やっぱり逆に力強い応援が耳に入るとうれしく、挫折しそうになる自分の力になった。

 「あのプレーを取り返すことはもうできません。どんなに考えても、もう戻っては来ません。だから、これを機に強い自分になりたいと思う。しっかりと仕事ができるように修行をして、あのプレーがあったから、この悔しいシーズンがあったから、鈴木大地は成長したといつの日か言ってもらえるようになろうと思っています。あのミスや悔しさから逃げてはダメ。今後もきっと何度も思い出すだろうけど、そのたびに向き合います」

 11月1日、鴨川での秋季キャンプが始まる。それを前に鈴木はようやく前向きな自分を取り戻しつつあった。指揮官が掲げるキャンプテーマは「超追い込み!」。心の痛み、悔しさから、もう逃げるようなことはしない。共に歩みながら、限界に挑戦をする。苦しみを越えた先にはきっと、笑える日が待っているはずだ。

 (千葉ロッテマリーンズ広報 梶原紀章)

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