色紙を手渡された。ファンを通じて岩下大輝投手の手にそれは渡った。今季限りでマリーンズを退団することになった小谷正勝2軍投手コーチの直筆メッセージ入りの色紙だった。そこには「岩下君へ。一歩進むな。半歩遅れるな」と書かれていた。

 「感動しました。うれしかったです。自分のことをこんなに見てくれていて、気に掛けていただいたのかと思うと、オレ、頑張らないといけないなあと痛感しました」

 岩下は宮崎でのフェニックスリーグ参加中にロッテ浦和球場に残留をしている小谷コーチが今季限りで退団をすることを知った。直接、顔を合わせて感謝の思いを伝えたかったが、その後は鴨川市でのキャンプに参加。時間が流れた。ただ、浦和球場にいたファンに、師は最後のメッセージを託していた。

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 プロ1年目の昨年は2軍でわずか2試合の出場にとどまった。そのオフに右肘内側側副靭帯(じんたい)再建手術を受け、今季はシーズンを棒に振った。チームが元気よく全体練習を行うのを横目にリハビリを行うしかない若者に小谷コーチはよく声を掛けた。「焦るなよ」。口酸っぱく言われた。だからこそ、色紙に書かれていた言葉が、なによりも身に染みた。

 「地道に行けということだと思います。一歩ずつ、しっかり前に進めと。焦って、欲を出して2歩、3歩飛ばしで行こうとせずに目の前をコツコツと進めということではないでしょうか。人間、特にボクなんかは、いきなり成長をすることなんてありえない。地道にコツコツと毎日、努力を重ね続けてこそ結果が出るものだと思います」

 孫ほど歳の離れた岩下を名伯楽は気にかけてくれた。それは星稜高校からドラフト3位で入団した大型右腕の潜在能力を高く評価していた証しだ。

 「オイ。オマエはタイプ的には西野(勇士)に似ている。フォームも体型もな。せっかく目の前にそんな先輩がいるのだから、その姿をよく見ておけよ。どんな練習をしているか。どんな投げ方をしているか。研究をしておけよ」

 だからその言葉通り、ずっと背番号「29」のマウンドでの立ち振る舞いを観察していた。右肘を手術して投げられない日々。テレビ中継や動画を見てはマリーンズのストッパーとして活躍する西野に、未来の自分の姿を思い描いていた。石垣島での1、2軍合同キャンプ。全体練習に合流できない悔しさの中、1軍投手、とりわけ西野の投げる姿を追っかけ続けた。

 7月に投球練習を再開。10月に宮崎で行われたフェニックスリーグで実戦復帰をすると、3試合に登板。ストレートは140キロを計測した。長身から投げ下ろされたそのボールは、球速以上に伸びとキレがあった。

 「やっと投げることができた。自信と手応えはあります。来年はやっと最初から投手として投げることができる年。でも、やっぱり着実に、ですね。こういう時だからこそ焦らずに少しずつ伸びるぞと、心掛けていこうと思います」

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 そんな恩師のメッセージの書かれた色紙はロッテ浦和寮の自室に飾ってある。これからも時には焦ったり、壁にぶつかり落ち込んだりすることもあるだろう。そういう時はこの色紙を見て、自分を見つめ直そうと決めている。

 「オフは地元石川に戻って体を鍛えます。来年は春のキャンプからアピールをして、まずは2軍でしっかり投げたい。そしていつかは同じ年頃でずっと先に行ってしまった連中に追いつき、追い越したい。そう思っています」

 思えば昨年の11月は病室のベッドの上にいた。今は投げることができる幸せを感じ、毎日、トレーニングに励む充実した日々を送っている。「一歩進むな。半歩遅れるなですよ」。岩下はそう言って笑った。見つめる視線の先にはハッキリと将来の夢や目標が見えているような気がした。そしてそこにたどり着くまでの道筋もしっかりと決めている。大きな苦難を乗り越えてマウンドに戻ってきた若者が輝いて見えた。

 (千葉ロッテマリーンズ広報 梶原紀章)

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