石垣島キャンプでブルペン投球する有吉

 特別な思いでマウンドに上がった。2月23日。石垣島キャンプを終えたマリーンズは沖縄本島で対外試合をスタートさせていた。初戦の相手は宜野座でのベイスターズ。そのゲームで新人の有吉優樹投手は八回から登板をし、1回を無安打無失点に切り抜けた。ルーキーとはいえ25歳。大事なアピールの場で結果を出した。

 「意外と落ち着いて投げることができました。気持ちで投げました」

 昨年末まで九州三菱自動車の営業マン。その時の癖はまだ抜け切れない。ふとした瞬間に携帯電話にお客様から着信がないか気になってしまう。「あ、もう気にする必要はないんだ」。素の自分に戻ると照れ笑いを浮かべる。それは野球だけではなく、一人の営業マンとして日々、汗を流してきた証しである。当時の配属先は福岡の福重店。300人もの顧客を抱えていた。ライバルの社会人チームは野球に没頭できる環境が与えられていることも多い中で基本は営業優先。試合前日であれ、お客様の納車が重なれば、それを優先し仕事が完了してからボールを握る。そんな日々だった。

 「お店は福岡ですから、もちろんお客様のほとんどはホークスファンです。それでもドラフト後はお客様から『有吉くんが投げる時だけはマリーンズを応援するよ』と言ってもらいました。本当にうれしかった。お客様のためにも早く1軍のマウンドで投げて、マリーンズのユニホーム姿をお見せしたいと思っています」

        □        ■        □

 昨年11月30日、福岡市内で行われたマリーンズとの契約。入団が合意に達すると笑顔で、そう抱負を口にした。当時は300人いた顧客の引き継ぎ作業の真っただ中。名刺にはきれいな字で一枚一枚に「三菱を退社することになりました。これまでありがとうございました。新しい担当の方もどうぞよろしくお願いします」と書き添えられていた。1週間前にも軽自動車を1台売って、納車を済ませたばかりという状況だった。

 元々は大網白里市出身。東金高校から東京情報大学を卒業し、野球を続ける道を模索し、福岡に渡った。ただ、そこは野球で結果を出すことが求められている環境ではなかった。企業の営業マンとして仕事を果たしながら、野球を続ける。営業ノルマもあり簡単ではない日々も、夢を諦めず、一生懸命に生きた。

 「プロ野球入りを諦めたことはない。むしろ、年々、プロ野球に入りたいという気持ちが強くなった。だから仕事にも野球にも頑張れた」

 慣れぬ営業。苦戦はした。「車を売ろうと思うな。お客様との関係を築け。ちょっとした提案や、配慮を繰り返すうちにキッカケができるものだ」。上司や先輩はいつも親身になってアドバイスをくれた。だから、とにかく取引先にまめに顔を出すことを心掛けた。「車の調子はどうですか?」「ちょっとエンジンの状態を確認しましょうか?」。日々の会話を大事にした。チームでは野球の練習中も携帯電話をズボンのポケットに入れることも認められていた。お客様から何か相談の電話があったときにすぐに対応できるようにチームの全員が持って練習をすることが当たり前のように許可されていた。そして、すぐに気が付くようにとマナーモードではなく着信音が鳴ることも許されていた。ブルペンでも電話は鳴る。ある時、気持ちよく投げていると、キャッチャーを務める選手の携帯が鳴った。お客様からの電話だった。まだまだ投げ込む予定が相手の捕手は急きょ、お客様のところに行ってしまいできなくなった。それが当たり前の環境。お客様優先に動くチームは誇りであり、これからも忘れたくない大事な初心だ。

 「おかげさまで4年間の間で30台を超える車を売らせていただくことができました。営業での経験、営業での多くの方との出会いは自分にとってプロ野球に入ってからも大事な宝物です」

        □        ■        □

 これまでの営業経験は野球に生きると信じている。お客様が何を求めているか。どうしたらいいのか。表情やしぐさから読み取る。そういうことも、次第に覚えた。観察力が磨かれた。それは打席に立つ打者との駆け引きとも、どこか相通じる部分がある。

 「最初は千葉を離れて心細かったですが今はたくさんの知り合いと思い出が福岡にあります。また千葉に戻ることができて、とてもうれしいですし、ぜひ福岡で投げる姿を見せるため1軍の遠征で戻ってきたいと思っています。そのためにも開幕1軍を目指して頑張ります」

 重い球質の速球にカットボールを操る投手。クレバーで強気の投球スタイルもマリーンズスカウトの目に留まり早くからリストアップされていた。福岡で貴重な経験と濃厚な日々を過ごし、地元・千葉に戻ったルーキー右腕。そのシンデレラ・ストーリーは今、始まったばかりだ。

 (千葉ロッテマリーンズ広報 梶原紀章)

関連リンク

関連するキーワード

千葉ロッテマリーンズ チャンネル

「千葉ロッテマリーンズ」の公式チャンネルです。マリーンズ広報担当が最新情報をお届けします。

ランキング

人気のある記事ランキング