勝利に貢献し、マイクパフォーマンスする猪本=6日、ZOZOマリン

 まるで、なにかの夢をみているような感覚に苛まれていた。5月6日、ZOZOマリンスタジアムで行われたホークス戦。猪本健太郎内野手はいろいろな思いを胸に打席に向かった。グラウンドに対峙するホークスの守備陣を見渡した。自分のことをかわいがってくれた先輩、そして苦楽を共にしてきた後輩たちが守っていた。マウンドには同期入団の攝津正投手の姿があった。スタメン発表の際にはホークスファンからも大きな声援が沸き起こった。三塁側ベンチにもお世話になった多くの人々の姿が目に入った。そんな中、移籍後初打席に立つ。1打席目は凡退。しかし、2打席目に左翼線に二塁打を放つ。内角ストレートを振り抜いた。自身プロ2安打目となる3年ぶりの一打。二塁ベースに到達をすると、こみ上げる思いがあった。

 「(古巣のホークス相手で)運命のようなものを感じました。両球団への感謝の気持ちを持って打席に入りました。100倍、燃えた。泣かないと決めていたから、泣かなかったけど、我慢はしていました」

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 昨年の8月。2軍戦で一塁を守っていた際に走者と交錯し右手親指の靭帯を痛め手術。そして実戦復帰できぬままホークスの戦力構想から外れ昨年11月にマリーンズのテストを受けた。鴨川秋季キャンプ中の紅白戦。もしかしたら、これが野球人生最後の打席になるかもしれない。悔いを残すまいとアピールし、その気迫こそが首脳陣に認められ合格を勝ち取った。しかし、その後も順風満帆とはいかない。アピールすべく強い意気込みで挑んだ石垣島での春季キャンプ。張りきりすぎたことが災いした。左脇腹を肉離れ。4月下旬にようやく2軍戦で実戦復帰をした。

 「テストで移籍した立場。いきなりのリタイアはやっぱりキツかった」

 それでも前を向いた。いつでも胸に刻む言葉があった。「一寸先はパラダイス」。それは2軍では勝負強い打撃を見せるも、なかなか1軍では成績を残すことができずに落ち込み悩む猪本を励まそうと妻がふとした時に教えてくれた言葉だ。

 「言われた時、ハッとなりましたね。一寸先は闇という言葉もあるけど、確かにその逆もあるなあと。それに野球に通じることもある。一寸といえば約3センチぐらい。プロ野球の世界はその数センチの差でいろいろなことが大きく変わる世界。わずかちょっとの差で闇にもなればパラダイスになる。それからですね。この言葉を思い出すことで、苦しい時もパワーが出るようになりました。悩んでいるのだったら明るくして、いい方に転がるように頑張ろうと思えるようになりました」

 ホークス時代から明るいキャラに定評があった猪本は、移籍後も元気とガッツを前面に押し出した。そして、まさにそれこそが伊東勤監督を決断させた。「今こそ明るいキャラが必要と思った。うちにはいないタイプ。新しい風を入れることで雰囲気を変えてくれることを期待した」。最下位と低迷するマリーンズにあって、その明るさこそが買われた。5月4日。2軍の仙台遠征を終えて仙台駅で新幹線に乗ろうとしたときに携帯電話が鳴った。チームマネージャーからだった。1軍昇格の連絡に胸が高鳴った。まさに「一寸先はパラダイス」。しかも相手はたくさんの思い出が詰まる古巣ホークスだった。

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 1軍昇格をした際に打席に入る曲は決めていた。「思い入れのある曲があるので、それでお願いします」。球場入りをするとそう告げた。湘南乃風の「BIG UP」。それはホークス時代に自主トレを共にするなど兄のように慕っていた江川智晃外野手の打席に入る際の登場曲。昨年、けがで戦線離脱をして落ち込む猪本を励まし続けてくれた存在だ。忘れられないのは江川が昨年8月「オマエのために打ってくるから」と言い残して1軍昇格した時のこと。スタメン起用されると約束通りに本塁打を打つなど8月は7試合で3本塁打。「見ているか!」とばかりに活躍する姿に大きな勇気をもらった。だから、戦力構想から外れても勇気を振り絞って立ち上がることができた。そしてなにかの縁が絡まり、古巣との対戦カードで移籍後初の1軍昇格を果たした。2戦目には7番一塁でスタメン出場のチャンスが回ってくる。自身プロ入り初の長打で勝利に貢献をした。まさに運命を感じさせる出来過ぎなシチュエーションだった。

 「チームの一員になることができた気分です。そして古巣の方々にも元気なところを見せることができた。でも、これからですね。とにかくチームの勝利に貢献をしたい。勝ちたいです」

 一寸先にある闇もパラダイスも知っている。ストライクかボールか。ヒットかファウルか。わずか数センチの差が大きな差となるプロ野球界の厳しさを味わってきた。だから、いま与えられたチャンスをなんとしてもモノにしようと燃える。そして、起爆剤として期待される自身の存在でチームの勝利に貢献すべく声を枯らしての必死の毎日を送る。人生の苦難を味わった苦労人がマリーンズ浮上のキッカケになる。まだ5月。一寸先は分からない。

 (千葉ロッテマリーンズ広報 梶原紀章)

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