カフェは文化の花開く場所。例えば、花の都パリのモンマルトルにはかの有名な「Le Dôme」というカフェがある。パリが芸術の都として栄えたのは上質なカフェがあったからこそと思う。ぼくの中では、上質なカフェは「まちのえき」なのだ。ひらがなにするのは、町・街・待ちと駅・益・役などの意味を含んでいるからなのだが。

 まちのえきでは、毎日楽しいドラマや新しい出会いが生まれてくる。珈琲は主役ではなくBGM。珈琲の醸すアロマや味わいが、人の思考を鎮静させ、脳の働きを明晰にさせる静かな脇役として存在しているのだ。語らいが盛り上がるのは、珈琲がゆったりとした心の開放感をもたらすからなのだ。そんな上質なカフェには、談笑を楽しむ人々が現れる。気のいい店主は、常連を楽しませようと、裏メニューなるものを作ってしまったりする。裏メニューには、店主のこだわりがあふれてしまう。今日もそんな裏メニューと粋な店主に出会うために、心のままに放浪に出ようと思う。

江戸時代の古民家を改装した店内

 個性あるカフェが増えて来ている南房総、おしゃれなカフェもいいが、個性あふれるカフェめぐりがえどもんずの流儀。今回のアンテナに適ったのは、小さな入江の古民家カフェだ。うわさで天女がいると聞き、気づいた時には車を走らせているぼくってどうなの。国道127号から房総フラワーライン(410号)を鴨川方面に向かい、富崎漁港の看板を右折、坂を下りるとそこに小さな入江が現れる。

入江に煌めく夕陽は懐かしい郷愁を誘い、ストップモーションのように時が止まった空間が切り取られている。ここが天女の住む布良漁港だ。わが合掌館同様に、江戸時代のたたずまいを醸す小さな古民家カフェが、夕陽に染まり輝いていた。

 古民家には不思議な力がある。エディ辞典によれば、樹齢100年以上の梁や柱には、人を落ち着かせ、精神を安定させる力があるのだ。わが合掌館も同様で、そのたたずまいに、これはただ者ではない気配を感じ、玄関を開けてみることにした。

 中から現れたのは、着物姿の天女、いや女将。うわさに違わぬ笑顔にひかれて吸い込まれるように店内にあがりこんでしまうえどもんずなのであった。

 座敷には4つのテーブル。江戸時代の建物を自ら手を入れ、丁寧に修復した「カフェ蘇堂」。釘隠しの長押や木彫りの欄間は磨きこまれて木肌が輝き、浴衣地を再生した手づくりインテリアがバランスの良いこだわりの空間を演出している。店内のBGMは天気、季節により変えるというが、今日はケルト民謡が流れ、不思議と心地よい空間がそこにはあった。

 オーナーの岩田さんもぼくと同じ江戸もんで、都内のレストランで洋食全般を修行したのだそうだ。房総の土地柄に一目惚れして、この入江の古民家を借り、2011年11月に開業したのだそうだ。

 岩田さんいわく「南房総の豊かさを、食材を通して感じてほしい。だからここでカフェをやる決意を持ったのです」と。

 四季折々の南房総の豊穣を余すことなく引き出した料理を提供している。だからメニューがあってもすべてが裏メニュー的な存在なのである。

左)洋の懐石を思わせる大人のご褒美お子様ランチ
右)ホーリーバジルというインド産のオーガニックハーブティー

 ならば、まずはお薦めのドリンクをくださいと注文。出されたハーブティーは「ホーリーバジル」。眼を閉じ、口にした瞬間に広がる味わいは、南房総の海岸線で出会い、ひと目ぼれした女性とのキスの味わい。

 「むむ。な、なんなんですか?このお茶は?」

 「これは、インド産のオーガニックハーブです」

と天女のような女将が微笑む。インドでは、聖なる草と言われ、食べたり、お茶にしたりと生活の中心となる重要な草なのだそうだ。免疫力が活性化されて、ぼくは一瞬でこのハーブティーの虜になってしまったのである。

 さて食事は、気になる「大人のご褒美お子様ランチ」を注文。皿に盛られた一品ごとに手間と愛情をかけ、洋の懐石料理を彷彿とさせるひと皿だ。お腹の空き具合により小盛や大盛も調整してくれるきめの細かいサービスがうれしい。

左)幻のドルチェ・ジャポン
右)郷愁誘う布良漁港

そして、食後のスイーツは「ドルチェ・ジャポン」。千葉県産の美味しい素材を使い、南房総から世界に挑む日本の代表スイーツとなるようにと命名。千葉県民のソウルフード を100%使用したマル秘のスイーツなのだ。ぜひ食材を当ててほしい。一年かけて開発したというこのスイーツ、中のアイスが溶けないように試行錯誤を重ねて誕生したという。時間の経過とともにムースのような口どけと懐かしいマル秘味が2度楽しめるのだ。

 「カフェには、常に出会いの縁(えにし)がある」と職人かたぎのオーナーと天女のような女将が語る。まるでおとぎ話のようなカフェとの出会いに感謝。時間が止まる小さな入江の古民家カフェは、外に出るとまだ夕日に包まれたまま。パイプに火をつけ、紫煙に包まれ、出会いの縁を噛み締めていた。

つづく

文・写真:青山えどもんず
カフェ・えどもんず(富津市金谷)のマスター。父から珈琲道を学び、希少なブルーマウンテン珈琲の魅力を発信し、全国の珈琲党の聖地となっている。ある時は怪しい日本画コレクター、ある時は頼れるダディ、ある時はTVドラマ「ふるカフェ系ハルさんの休日 千葉・金谷」の主人公。上質の珈琲に魅力ある人々が集い、上質の文化が生まれると語る。

EDOMONS DATA

カテゴリー:時間の止まる不思議カフェ食堂
店   名:布良café食堂 蘇堂(そどう)
住   所:〒294-0234  千葉県館山市布良306-1
電   話:090-9830-4943
定 休 日:月・火
・営業時間:平日/11時半から16時(15時ラストオーダー)
      土日祝日/10時半から16時(15時ラストオーダー)

この記事は、千葉県富津市金谷で営む古民家カフェ「cafe edmonds」のマスターの青山えどもんずが、房総のさまざまなカフェをめぐる放浪記です。
「<第3話>布良 café 食堂 蘇堂(そどう) 幻のドルチェ・ジャポンと天女のハーブティー」は、2016年2月22日の千葉日報に掲載されました。

関連リンク

関連するキーワード

青山えどもんずの房総かふぇ放浪記チャンネル

千葉県富津市金谷で営む古民家カフェ「cafe edmonds」のマスターの青山えどもんずが、房総のさまざまなカフェをめぐる放浪記です。

ランキング

人気のある記事ランキング