二木康太投手

 外野フェンス沿いで、一人立ち尽くしていた。4月6日、福岡ヤフオクDの外野。試合前打撃練習中、二木康太投手は前日の投球を振り返っていた。ホークス戦に先発して3回1/3を投げて3失点。今季初先発から2戦連続で5回もたずに、降板をした。1軍の舞台でチャンスは何度もあるものではない。危機感、焦りを感じた。野手が放つフリー打撃のボールの行方を追いかけながら一人、自問自答を繰り返していた。

 「2戦連続KOですからね。せっかくチャンスを頂いたのにと。苦しかったですし、落ち込みました。なにがいけないのかといろいろと考えていた」

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 練習時間終了が迫っていた。セットアッパー陣はロッカーに引き揚げ、外野センターに用意されていた投手の調整スペースには2、3人の先発投手を残すのみとなった。悩める右腕に、スッと近寄る選手の姿があった。涌井秀章投手だった。少しばかり会話をすると、身振り手振りでアドバイスを繰り返した。神妙に聞き入った。

 「キャンプの時と今で、フォームがちょっと違っているよね。キャッチボールから、違う。あの時はこんな感じだった。今はこんな感じになっていないかな」

 先輩からの指摘に、ハッとさせられた。気づかないうちに微妙にフォームにズレが生じていた。好調な調整をしていたキャンプ時と比べ、いつの間にか変化をしていた。小さな変化だが、それがボールに与える影響は大きい。それを涌井はハッキリと教えてくれた。なによりもそれを指摘してもらえたことがうれしかった。

 「ボクなんて去年までずっと2軍ですから。涌井さんと話をする機会もほとんどなかった。雲の上の存在。その人が自分のことを見てくれていたことがとてもありがたかった。キャンプの時のキャッチボールのフォームを覚えてくれていて、その違いを指摘してくれたことに驚きました。うれしかったです」

 心優しいアドバイスを、二木は意気に感じた。それから次回登板までの期間、そのフォームのズレを意識し、徹底的に修正をした。涌井もまたそのフォームを見て、「よくなっていると思う。これで大丈夫じゃないかな」と後押ししてくれた。そして臨んだ4月12日の楽天戦(Koboスタ)。若者は杜の都のマウンドで躍動した。9回を6奪三振、1失点。八回まで無失点の好投を見せ、プロ初勝利をマークした。

 「あの一言は大きかったです。自分の中でも次はうまくいくという自信になった。せっかくのアドバイスを無駄にするわけにはいかないという気持ちになりました」

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 初勝利を挙げた翌日、あの時と同じように外野で次回登板に向けて調整をしていると涌井が話しかけてくれた。「初勝利おめでとう」。短い言葉で祝福してくれた。そして続けた。「負けている時に落ち込んでも仕方がないぞ。なにが悪かったかをしっかりと分析したら、あとは次の登板に向けて前向きに取り組めばいい」。エースは若者の心情をすべて見通していた。結果が出ずに焦り、夜も眠れないほどに気落ちする二木の姿を見てあの時、タイミングを見計らって、端的にアドバイスをした。その言葉に背番号「64」は救われた。大きく変わるキッカケをつかんだ。今もその時の言葉の一つ一つを思い返しながら、練習に取り組んでいる。

 「言葉数は決して多い人じゃないけど、本当に後輩思いでいい人。あの人のようになれるようにこれからも頑張りたい」

 弱冠20歳の右腕のプロ野球人生は始まったばかり。これからも悩み、いくつもの壁にぶつかるだろう。ただ、そこに涌井という先輩がそばにいることは大きな幸せだ。きっと、また本当に苦しんでいる時があればタイミングを見計らって、そっと声を掛けてくれるだろう。優しく後輩を正しい道へと導いてくれるはずだ。

 (千葉ロッテマリーンズ広報 梶原紀章)

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