赤七屋オーナーの金田勝巳さんと由実ご夫妻

カフェは文化の花開く場所。例えば、花の都パリのモンマルトルにはかの有名な「Le Dôme」というカフェがある。パリが芸術の都として栄えたのは上質なカフェがあったからこそと思う。ぼくの中では、上質なカフェは「まちのえき」なのだ。ひらがなにするのは、町・街・待ちと駅・益・役などの意味を含んでいるからなのだが。

まちのえきでは、毎日楽しいドラマや新しい出会いが生まれてくる。珈琲は主役ではなくBGM。珈琲の醸すアロマや味わいが、人の思考を鎮静させ、脳の働きを明晰にさせる静かな脇役として存在しているのだ。語らいが盛り上がるのは、珈琲がゆったりとした心の開放感をもたらすからなのだ。今日も粋な店主に出会うために、心のままに放浪に出ようと思う。

いちごの町のイチゴミルク

ぼくの初恋相手は涼しげで凛とした女性だった。まるで「水出し珈琲」のような女性だ。

静かにじっくりと抽出する水出し珈琲は、時間と手間はかかるもののスッキリとまろやかな味わいで、奥ゆかしくしっとりとした日本女性をイメージさせてくれるのだ。合掌館では、さらにひと手間かけて、ぼくの初恋の君をイメージしたアイスコーヒーをお出ししている。

お客様との語らいの中で、「マスターの好きな女性のタイプは」と聞かれることがあるが、ぼくはつねに「アイスコーヒーを飲んでみて下さい」と答えている。

そんな会話から発展して、一宮町に霊験あらたかな縁結びの神を祭る神社があると聞いた。水出し珈琲のような女性との出会いを夢見てしまうぼくは、居ても立っても居られず、合掌館を後に、一路128号線をひたすら一宮に向けて北上していた。

いざ、目指すは玉前神社だ。1200年以上の歴史があり、海の女神玉依姫命(たまよりひめのみこと)がご祭神となっていて、縁結びの幸運をもたらすという神社なのだそうだ。

朱塗りの鳥居をくぐり、すれ違う参拝客すべてが女性で、やっと気づいた。「ああここは、女性のための縁結び神社だったのか」と。

目の前が真っ暗闇になり、意気消沈するぼく。回れ右をしたぼくの視界に白い蔵の素敵なカフェが映った。

縁結びの神に見放されたぼくに優しくたたずむ蔵カフェが待っていてくれたのだ。これも玉依姫命が結んでくださったご縁なのではと、さっそく中に入らせていただいた。

赤七屋というカフェ。この建物は、明治時代に建てられた土蔵だそうだ。

一宮の名称の由来である玉前神社の参道で 玉前神社を見守り、「ニンベン」の愛称で親しまれてきた建物なのだそう。2014年、この蔵に一目ぼれして赤七屋をオープンし、できる限り、歴史あるたたずまいの趣を残しながら、人々が集う場所にしたいと語るマスターの金田勝巳さん。そして気落ちしているぼくに、若女将の由実さんが優しく声を掛けて下さる。蔵の中の落ち着いた雰囲気に、若いマスターと若女将との優しい語らいが嬉しい。

「一宮町は、温暖な気候に恵まれ、イチゴやメロン、ナシなどの産地として知られているんですよ。旬の新鮮な果物で作るオリジナルシロップで 、一年を通じてかき氷を提供して楽しんいただいているんです」。

なるほど、蔵は夏涼しく、冬暖かいから、冬でもここではかき氷が商品になるのだ。

玉前神社と生姜をかけたネーミングの「玉前ジンジャー」は、新生姜を甘く煮だしたシロップにレモンと練乳で、最初は甘く、後味ピリリ。今の季節にさっぱり食べていただきたい一品なのだとか。

夕凪コーヒーと懐かしロール(写真左) 蔵の良さを生かした落ちついた店内(写真右)

オーダーしたのは、玉前神社の朱塗りの鳥居を思い起こさせる「いちごの町のイチゴミルクと夕凪コーヒー」。すっきりとした酸味と甘味が淡雪のような氷とともに口の中に溶けてゆく。遠い日の初恋の味をこの玉前神社で思い出させていただいたのだ。

「赤七のかき氷を食べて、冷静になったところで参拝されたらいいですよ。きっと男性にもご利益は降り注ぐはず」。

若い主人と女将に励まされ、意を決して、再度鳥居をくぐり境内に向かう。ニ礼ニ拍手一拝し、迷いなく、水出し珈琲のような女性との出会いを祈願し、赤七屋とのご縁を報告させていただいた。

木漏れ日に一陣の風が吹く境内。日傘を差した涼しげで凜とした婦人がどこからともなく現れ、緑の境内を横切って行く。遠く切ない初恋の想いが、かき氷のように溶けて消えていった。

赤七屋、ぜひ再訪し、ご縁を報告したいカフェだ。

煌めきの恋は
 淡雪の刹那に
     珈林一茶

EDOMONS DATA

カテゴリー:町の歴史と縁起を見守る蔵カフェ
店  名:上総一ノ宮こおり 赤七屋
住  所:〒299-4301 千葉県長生郡一宮町一宮3030 (玉前神社参道)
電  話:0475-36-3252(予約不可)
営業時間:10:00~18:00
定休日:隔週水曜日、毎週木曜日
駐車場: 店舗横(1台)、一宮町商工会館の駐車場(10台程度)

この記事は、千葉県富津市金谷で営む古民家カフェ「cafe edmonds」のマスターの青山えどもんずが、房総のさまざまなカフェをめぐる放浪記です。
「<第7話>上総一ノ宮 こおり 赤七屋 恋の行方を占う縁結びカフェ」は、2016年6月22日の千葉日報に掲載されました。

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千葉県富津市金谷で営む古民家カフェ「cafe edmonds」のマスターの青山えどもんずが、房総のさまざまなカフェをめぐる放浪記です。

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