かつて井戸掘り職人たちは、農業や鍛冶屋、大工などの本業をもちながら兼業で掘削をしていた人も多かったようです。
いずれにしろ、井戸掘りで生計を立てるには職人1人につき1日1間(約180cm)を掘らないと割りに合わない、といわれたそうです。
限られた人数、資材、予算、期間のなかで仕事をするのは現代の土木・建設現場と変わりませんが、急ぎの現場や難航している現場、予定より長引いてしまった現場などは夜も交替で掘るなど、不休で作業を続けたそうです。
当然、曜日や盆暮れ正月も関係なく昔の人はよく働きました。
残念ながら現代にその技術を受け継ぐ上総掘り技術伝承研究会はメンバー全員がボランティアのため、他に仕事を持ち、地域の役や家族の介護などの時間を大切にしながら伝承活動を続けています。
毎年、年末年始やお盆は活動をお休みしますが、年越し時は足場にお飾りをつけ、井戸の神様にも新年のお祝いをします。
ただし足場は屋外にあるため、お餅やミカンなどは野鳥に荒らされてしまうので長時間は飾っておけません。

井戸には井戸の神様がいて、新しい掘削現場で足場を建て、これから作業を始めるという時には必ず起工式を執り行います。
会の指導者・鶴岡正幸先生は神主の家柄なので、そのしきたりに習い、メンバー揃って作業の無事を祈願します。
足場板を祭壇に見立て、主柱に榊と小笹、掘削孔の上に日本酒とお米、お塩、お菓子など。
紙垂(しで)を取り付けたしめ縄を主柱の間に張って、一同被り物をとって整列。
二拝二拍手のあと、主柱と掘削孔にお供えのお酒を注ぎ、お米とお塩をまいて、簡単な儀式を終えた後はみんなで乾杯。
お酒の飲めない鶴岡先生はじめ下戸のメンバーも、形ばかりご相伴に預かって、これから始まる掘削作業の安全と、良い水が豊富に得られるよう祈願するのです。

かつて井戸の神様は女を嫌う、などの言い伝えもありました。
船や酒蔵、相撲の土俵などと同じ意味合いで、女人禁制と言われた時代があったようですが、実際には家族や親戚らで小規模に営む職人が多かった上総掘りでは、夫が親方になり、妻がヒゴグルマを回すなど、夫婦2人で足場に上がって掘削している姿が普通に見られたと言われています。
鶴岡先生は実際に上総掘りで生計を立てていた最後の世代ですが、伝承活動や掘削現場に女性が参加することを奨励しています。
消えゆく技術といわれる上総掘りを後世に伝えるためには、男女の差など実に瑣末なこと。
女性が加わって見事に掘り上げ、立派な井戸が完成している現場はいくつもありますし、掘削体験などでも男性より女性の方が飲み込みが早く、丁寧な仕事をするため上手になるという例が多く見られます。
2015年、メンバーが怪我をすることもなく無事に活動を続けられたことに感謝しながら、2016年も安全に井戸の完成に向けて作業が進められるよう、井戸の神様にお祈りしたいと思います。

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袖ケ浦市郷土博物館に拠点を置き、国指定の重要無形民俗文化財に指定された「上総掘りの技術」の技術保持団体である「上総掘り技術伝承研究会」と、技術保持者である3代目・井戸掘り職人の鶴岡正幸がお送りする、上総掘りのお知らせチャンネルです。
千葉県の上総地方で誕生した伝統的な手掘りの深井戸掘り工法「上総掘り(かずさぼり)」。少人数の人力だけで、重機や電力を使わずに数百mの深さまで井戸を掘ることができるこの技術で、かつて新潟の油田や別府温泉なども掘られました。
現在では水不足に苦しむアジアやアフリカ諸国で、上総掘りの技術を活用した支援や国際交流を行う事例が増えています。
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