その日は終始、表情は硬かった。伊東勤監督の55歳の誕生日となった8月29日。試合前、恒例となっていた選手による誕生会は行われなかった。指揮官から事前にチームスタッフを通じて断りの意志を伝えていた。

 「ファンあっての自分。今のこの成績は自分の責任。今年、この成績で自分の誕生日に喜ぶことなんてどうしてもできない。そんな顔を見せられない。選手たちは気持ちだけはありがたかった。それだけで十分。ただ、自分の中でそういう会は開催することはできないと思っていた。ケジメは必要だと思っていた」

 だから、この日、いろいろな関係者から「おめでとうございます」と声を掛けられても、なかなか笑顔を見せることはなかった。報道陣が用意していた誕生日ケーキには、「皆さまも撮影をするのが仕事だと思うので…」と最初は躊躇(ちゅうちょ)しながらも最後は撮影に応じた。それでも、やはり表情は神妙なままだった。

 「物心ついたときから、ここまでいろいろな誕生日を過ごしてきたけど、今年ほどうれしさの感じることができない1年と誕生日は初めて。それとこれとは別だと言ってくれる人もいたけど、自分のような影響力と責任のある仕事をさせてもらっている立場ではそんな甘いことは絶対に言えない。こんなことになってしまってファンに申し訳ない気持ちしか出てこない」

 それでも毎年、サプライズ誕生日の会場になっている関係者駐車場スペースにはたくさんのファンが指揮官の誕生日を祝おうと待っていた。試合直前に、それを伝え聞くと少しだけ表情を緩めながらも「ありがたいね。そんな人たちをオレは喜ばすことができなかった。つらい」とまた顔をこわばらせた。

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 複雑な感情を胸に始まった指揮官のバースデーゲーム。選手たちは燃えていた。キャプテンの鈴木大地内野手は「なんとか白星をプレゼントしたい。今年、例年のように誕生日会ができない以上、それしかできない」と口にした。試合は同点で迎えた五回裏に一死満塁から猪本健太郎内野手の2点適時打で勝ち越すと6-2で勝利した。ウイニングボールは田村龍弘捕手から伊東監督に渡された。いつもは受け取るのを断るのだが、この時ばかりは選手たちの熱い気持ちに押され、「これが最後だから思い出としていただきます」と言って頭を下げ、大事そうに右手で握りしめた。試合後、恒例となっているスタンドとグラウンドの選手が一体となって「WE ARE」を3回、連呼する儀式では、選手たちによる発案で伊東監督を想い、バースデーソングが歌われた。選手とファンが一緒になって大きな声で歌った。その後、スタンドからは「伊東マリーンズ」のコールが湧き起こった。

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 残念ながら伊東監督は試合後の記者会見中でその光景を目にすることも耳にすることもできなかった。帰り際、その報告を受けるとこの日、初めてといっていいほど顔が緩んだ。

 「ありがたいことだね。もっと早く教えてくれよ。それなら、グラウンドに行って頭を下げないといけないじゃないか。申し訳ないことをしました」

 そう言うと今年もまた目を潤ませた。思えば毎年、選手たちからサプライズ誕生日を催され、感極まってきた。今年もやはり選手たちは指揮官に勝利というバースデープレゼントをし、最後は涙腺が緩んだ。ファン、選手、監督の気持ちが通じた夏の夜だった。夜風は少し秋の香りがした。

 「ずっと選手たちに勝つ喜びを知ってもらいたいと思って指揮を取ってきた。優勝の味がどんないいものか。勝つことで人生が変わるということを知ってもらいたいと思って日々を過ごしてきた。これまでAクラスに3度なったけど、もっともっと現状に満足することなく勝利を重ねてほしいと思っていた。それができなかったのは本当に申し訳ないし、自分の責任。この選手たちやファンを勝ちへと導いてあげることができなかった。それなのにファンや選手たちは自分を想って祝ってくれた。本当にありがたい」

 今季残り24試合となった。残された時間の中で選手たちに伝えたい想いや考えがある。伊東マリーンズは限られた時の中で、この日のように心を通わせ、未来への糧となる材料を一つ一つ積み重ねていく。

(千葉ロッテマリーンズ広報 梶原紀章)

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