オーナーの杉山春信さんとカフェを切り盛りする碇石麻紀さん

5年の歳月をかけ、自らの手で築二百年の古民家を再生し、カフェを営む者がいるらしいと風の噂に聞き、居ても立ってもいられなくなった。

ここ金谷の合掌館のリノベーションを考えていたぼくは、どうしてもそこに行きオーナーに会いたくなって、合掌館から国道127号線を南下して保田と交差する長狭街道を一路鴨川方面へと向かった。

しばらく走ると左側にそのカフェの看板を発見。ファミリーと共に、その噂のカフェにおじゃまさせていただいた。

里山の豊穣が詰まったナポリタン

 駐車場からの坂を上ると築二百年の古民家がその全容を現してくれた。合掌館のような大きな古民家ではないが、その地域の暮らしを支えてきた農家の造りがそのまま見事に再現されていて、思わず感動してしまった。

 このカフェの名は「夜麦」と書いてよもぎと読む(屋号をそのまま使用)。オーナーはこの地に窯を置く陶芸家の杉山春信氏だ。杉山氏は、この地で笹谷窯を構えて28年、自然農法で農業も実践し、この里山の豊かさにほれてしまったのだそうだ。彼の焼き物は、どれもこれも飾らない素朴さにあふれて魅力的である。

 そんな彼がギャラリーと作品販売も兼ねて、このカフェを立ち上げたのだそうだ。空き家だった古民家を借り、5年の歳月をかけてその手でこつこつと再現したのだそうな。思い入れが感じられる質素な気品のあるカフェになっている。わが合掌館も雨漏りやら漏電やら、メンテナンスも兼ねて手を入れないといけない時期ではあるのだが、果たしてどこまでこのぼくにできるのか悩みの種のえどもんずなのであった。

チャイの器は、杉山氏の作品

 さて、このカフェを実際に切り盛りするのは、オーナーの杉山氏に師事し、田舎暮らしの魅力にはまった碇石麻紀さんだ。杉山氏の素朴な作品に、碇石さんのシンプルで洗練された料理のコラボレーション。シックで大人なインテリジェンスが古民家全体を包んでくださる。

 お食事は、チャイティーと自家製ベーコンのナポリタン、そしてサラダをいただいた。自家製ベーコンも、無添加の紅茶の葉で燻製にするこだわりを持っている。もっちりとしたパスタとトマトの酸味、そしてジューシーなベーコンの味わいが渾然となって里山の滋味豊かな優しさがしみこんでくる。日頃汚れきった我が心が浄化されていくえどもんずなのであった。

築200年の農家を5年かけて再現

 オーナーの杉山氏がこの古民家に出会ったのは8年前。空き家だったその家を、なぜ再生させようと決意したのか伺った。

 「この大量消費時代に、日本古来の文化や風習が失われていく危機感と、古民家が空き家となりどんどん無くなっていく寂しさ。一軒でも保存できればとの強い思いでコツコツと各地の古民家廃材などを再利用して5年をかけて完成させました」。

 「JIS規格もない時代に、戸などのサイズが統一されていた事に日本の伝統文化の素晴らしさをさらに強く持ちました。手植え・手刈・天日干し・無農薬・無肥料の米作りや、味噌、醤油作りも10数年継続、もちろん添加物無しです。この地域では当たり前であった作業を、子育て世代や若者に、農業体験を通じてもっと伝えていきたい」。

 「20年後30年後、この地域を守れるか。里山の恵みや暮らしの豊かさを知っていただき、この地域で誇りをもって生きて行ける場にしたい」と静かに語る杉山氏の目は、野武士のように鋭く輝いていた。

左)えどもんずの仲間ものびのびカフェタイム
右)長狭街道沿いの看板

 取材を終え、一杯の無農薬コーヒーを飲み干し、オーナーと店長の笑顔に触れた瞬間、何だかパワーに充ちている自分に気付かされ、感謝の気持ちがあふれてきた。里山の育む地野菜と愛情の力なのだろう。

 夜麦のメニューは、オーナー杉山氏と碇石さんのメッセージであり、食材とその空間の癒やしは、現代人の矛盾を逆に語ってくれているのだと胸が熱くなった。「カフェは街の駅であり発信基地を地でいってくれるありがたみ」に感謝。

 里山の懐かしい風が心地よくぼくを包み、静かな深い感動が広がっていた。

文・写真:青山えどもんず
カフェ・えどもんず(富津市金谷)のマスター。父から珈琲道を学び、希少なブルーマウンテン珈琲の魅力を発信し、全国の珈琲党の聖地となっている。ある時は怪しい日本画コレクター、ある時は頼れるダディ、ある時はTVドラマ「ふるカフェ系ハルさんの休日 千葉・金谷」の主人公。上質の珈琲に魅力ある人々が集い、上質の文化が生まれると語る。

EDOMONS DATA

カテゴリー:里山の力をいただく古民家カフェ
店  名:古民家カフェ 夜麦(よもぎ)
住  所:千葉県鴨川市金束1137
電  話:04-7094-5790
営業時間:午前11:00~ 午後5:00
定休日:火・水曜日
    ※素泊まり・農業体験も可能ですが、予約が必要です。

この記事は、千葉県富津市金谷で営む古民家カフェ「cafe edmonds」のマスターの青山えどもんずが、房総のさまざまなカフェをめぐる放浪記です。
「<第4話>古民家カフェ夜麦(よもぎ) 里の豊穣を伝えるソウルカフェ」は、2016年3月22日の千葉日報に掲載されました。

関連リンク

関連する記事

「世界に誇るトイレ文化発信」 成田空港、50億円投じトイレ一新! 最先端機器整備やU…

成田国際空港会社は、2020年の東京五輪・パラリンピックに向け、成田空港ターミナル内にあるすべてのトイレを全…


   ちばとぴ!編集部チャンネル

安心してください、落っこちませんよ。 「逆さま車両」発進! 千葉都市モノレール

千葉都市モノレールは、上下逆さまにデザインした新ラッピング車両「ノモちゃん号」の運行をスタートしました。


   ちばとぴ!編集部チャンネル

関連するキーワード

青山えどもんずの房総かふぇ放浪記チャンネル

千葉県富津市金谷で営む古民家カフェ「cafe edmonds」のマスターの青山えどもんずが、房総のさまざまなカフェをめぐる放浪記です。

ランキング

人気のある記事ランキング

【カメラ部】投稿写真ギャラリー 2017ー18冬季(12〜2月)

毎月1名様限定、投稿写真をTシャツに特別加工してプレゼント!