スタンドのファンへ帽子を取る井上。5年目の今季は5月時点で本塁打と打点の自己最多を更新している=ZOZOマリン

 どう殻を破るかですね。井上晴哉内野手はそう口にしてチームバスに乗り込んだ。5日のファイターズ戦(札幌ドーム)の試合後のことだ。マリーンズは4-6で敗れた。三回に一時は勝ち越しとなる4号2ランを左翼中段に放った男は、それでもチームの敗戦をすべて背負い込むようにつぶやいた。しかし、すぐにまた前を向いて力強く歩き出した。

 「みんなが回してくれたのにもったいないという想い。みんな僕のことを信頼して、前の打者の人たちが必死に回してくれていた。その期待に応えたかったんです」

 後日、井上はその時の心境を振り返った。2点ビハインドの最終回だった。打順は9番から。ベンチで鳥越裕介ヘッドコーチの檄(げき)が飛んだ。「さあ、4番まで回せ。4番まで回すぞ」。それに仲間たちが呼応した。ベンチ内の雰囲気に4番を打つ当事者の井上は気持ちを高ぶらせた。「回ってきたら、絶対にオレで決めてやろうと思った」。2アウトとなるが、3番中村奨吾内野手がしぶとく右前打でつないで一、二塁。打席が回ってきた。一発逆転の場面。みんながつないで、本当に巡ってきたチャンスに体中からアドレナリンがあふれるのを感じた。しかし結果的に、その欲がマイナスと出る。サードゴロゲームセット。天を仰いで悔いた。

 「冷静に考えれば、あそこで自分は逆転打を放たなくてもいい。つないで1点でも取ることができれば流れがまた変わっていたと思う。それができなかった悔しい思いがあの言葉になりました。ああいうところが考えが甘い。欲張って自分のスイングができなかった。ただ、今はそういう自分の失敗とすぐに向き合い、しっかりと反省できている。そこは今までと違うかなと思う」

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 開幕から8日のイーグルス戦(楽天生命パーク)までの31試合においてけがで戦線離脱した角中勝也外野手に代わって4番を任された。悔いては、やり返す。そんな自らの心を削るような毎日で歯を食いしばって戦った。井口資仁監督からも「これは一番のチャンス。そして彼にとってはピンチでもある」と独特の表現で鼓舞し起用した。34試合に出場して27打点はチーム断トツの数字。思えば井口マリーンズ初勝利もこの男の1、2号本塁打で決まった。充実した日々。しかし、打てず敗れれば、打った時の倍ほどの悔しさが襲う。それでも今年の井上は逃げないと決めている。失敗と向き合う心の強さを備えた。そしてそれこそが成長の源だった。だから最後のチャンスで打てず敗れた夜も自分の考え方の間違いをすぐに正し、気持ちを新たにして次の試合に挑んだ。

 「前は自分の結果だけを考えてしまっていたところがあった。今はこのチームが勝つためにどうすればいいかと全体を見れている。疲れることも、しんどいことも、もちろんありますけどしっかりと反省して、それを生かしてと、かなり充実した毎日です」

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 「幕張のアジャ」。110キロを超える巨体と風貌からファンはそう親しみを込めて呼ぶ。ルーキーイヤーはオープン戦から本塁打を量産し、さらに首位打者となった。新人のオープン戦首位打者は1965年のドラフト制導入以降で初。その勢いのままに開幕スタメン、しかも4番に抜てきされた。新人の開幕4番は球団では64年ぶりの快挙だった。順風満帆なプロ野球人生がスタートするかに見えた。しかし、1年目から徹底的なマークにあい、36試合の出場で2本塁打。2年目はシーズン中に、右足の肉離れ、腰痛、左手人差し指の骨折とけがに泣かされ5試合の出場。2016年もファイターズとの開幕戦で今を時めく大谷翔平投手から先制打を放つも、その後は勢いに乗れなかった。4年目の昨年は本塁打ゼロ。毎年、春先は期待されながらも結果が伴わないつらさを味わい続けた。そのたびに心も痛めた。しかし、そんなヤワだった心を何年も砥石(といし)で研いで境地にたどり着いた。

 「去年までは『どうせ春先だけでしょ』と言われているのが嫌だった。気にしていたけど今は割り切っている。捉え方、考え方ひとつで人の気持ちはだいぶ違う。スタート(春)がいいんだったら、やり方次第ではもっとやれるはずと思えるようになった。ナイーブな部分、気持ちに左右されるところは今もありますけど、それと向き合うことはできている」

 真の自分とは、すなわち弱き心。それと正面から向き合い、付き合うことで成長が生まれた。そして今は指揮官の存在も大きい。「自分の性格を知っているように感じる」。普段はあまり深く会話をすることはないが時折、ポツリと話しかけ背中を押してくれる。その一言に救われる。今年はここまで34試合の出場で自己最多の4本塁打で打点も自己最多を更新中。自分の弱さと素直に向き合うことが出来るようになった背番号「44」。自分超えの充実した日々は続く。

(千葉ロッテマリーンズ広報 梶原紀章)

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