9月29日のオリックス戦でプロ初安打を放ち、ファンへ右手を掲げる大木(右)=ZOZOマリン

 追い込まれても気持ちで負けなかった。インコースのストレートに必死に食らいつき、はじき返す。魂の打球はセンター前に抜けていった。大木貴将内野手は一塁ベース上で右手を上げファンの声援に応えた。9月29日のバファローズ戦(ZOZOマリンスタジアム)。三回2死走者なしの場面でプロ入り初ヒットを放った。苦労して、ついにもぎとったプロ野球の世界での初ヒット。いろいろな人への感謝の想いが頭をよぎった。

 「ここまで長かったなあと思いました。去年、育成から支配下に上がって9月に1軍に初めて呼んでいただいた。今年の1年は長く感じた。いろいろと理解をして協力をしてくれた嫁にまずは感謝をしたい」
 試合後、手元に戻ってきた初ヒットのボールを大事そうに触りながら、ここまでの日々をかみしめるように振り返った。2015年10月に育成ドラフト1位でマリーンズに入団。新人合同自主トレが始まる直前の1月7日に4年半、交際をしていた亜咲紀夫人と入籍をした。妻帯者となったため、希望をすれば寮に入らないという選択肢もあったが、あえて他の新人と同じく寮での生活を選んだ。

 「ボクは育成。野球に打ち込んで、結果を出さないといけない立場ですから」

 荷物を寮に持ち込んだ大木は決死の表情で語った。妻は実家のある横浜に戻した。強い決意で臨むプロ入りだった。あえて、オフの日以外はほとんど連絡を取らずに野球漬けの日々を過ごした。毎日、2軍戦が終わり、居残り特打などを終えると寮で夕食。その後、入浴し、今度は寮の最上階にあるトレーニングルームに向かう。そこで体を動かし、午後10時ごろにはベッドに入る日々。そこにはプライベートな時間が入り込む余地はほとんどなかった。

 「妻と会うのは週に1回ぐらい。オフの日にお昼ぐらいから会って食事をして寮に帰る。そんな感じでしたね。2軍の試合に見に来てくれることもある。もちろん、寂しい部分はお互いあった。でも、僕は結果を出して、家族を養わないといけない。だから、ガムシャラに過ごすしかないと思っていた」

     □     ■     □     

 独立リーグの香川オリーブガイナーズ出身。華やかなプロ野球とはかけ離れた厳しい環境で歯を食いしばってきた。独立リーグは限られた場所で限られた時間帯にしか野球ができない。試合前の食事も用意されていないことが多かった。コンビニでサンドイッチやおにぎりを買って、試合前にベンチ裏で急いで平らげた。金銭面も苦しい。オフに球団が斡旋(あっせん)する企業でアルバイトをすることもあった。大木はカタログ通販の企業の倉庫で仕事をした。服などの在庫数を確認したり、梱包(こんぽう)したり。そんな環境の中で必死に野球をやってきたという自負があった。

 「独立リーグでやってきたプライドはあります。社会人出や大卒の選手に負けたくない。僕が頑張らないと後輩も続くことができない。ああ、こんなものかと思われてしまう。逆に頑張れば後輩の希望にもなる」

 励みがあった。同時期に同じく四国ILリーグの高知に所属していたタイガースの藤川球児投手がおととし10月に大木がマリーンズに育成ドラフトで指名をされたときに更新をした自身のブログで「間違いなく使える選手。僕のイチオシ。自信を持ってプレーをしてほしい」と絶賛をしてくれた。香川球団の関係者から伝え聞き、強い決意がみなぎった。「藤川さんにここまで言ってもらえたのだから、変なプレーはできない。しっかりやって、評価に応えないといけないと思った」。対藤川は四国ILリーグで8打数4安打。ベースランニングで一塁まで4秒を切る俊足や、首位打者を取ったシュアな打撃を見てくれていた。なによりうれしかったし、評価をしてくれたことが誇りに思えた。偉大なる投手の期待に応えたい。その想いもまた厳しい状況下の中でいつも大木を突き動かした。

 「小学校3年生の時に野球を始めた時からプロ野球に入ることを夢見ていた。だから育成でプロに入った時は絶対に1軍に上がる選手になるのだという想いで妻には理解をしてもらって寮に入らせてもらった。一緒に暮らせない寂しい思いをさせてしまった。今は一緒に暮らしていろいろと食事面の勉強をして作ってくれたりサポートをしてくれている。今日の初スタメン、初ヒットは彼女のおかげ」

     □     ■     □     

 スタンドには妻の姿があった。これまで寂しい思いをさせてきた妻を本拠地でのデビュー戦では招待するとずっと前から決めていた。妻の見守るプロ初スタメンの試合で初安打。そしてすかさず自慢の足で二盗も決めた。大事な人への想い、紆余(うよ)曲折の中、ここまでの道を切り開いてきたハングリー精神。いろいろなものがこもったゲームだった。日本プロ野球通算10万号本塁打が飛び出した華やかな試合の中で、大木もまた一生忘れることのない記念の一歩を踏み出した。

(千葉ロッテマリーンズ広報 梶原紀章)

関連リンク

関連するキーワード

千葉ロッテマリーンズ チャンネル

「千葉ロッテマリーンズ」の公式チャンネルです。マリーンズ広報担当が最新情報をお届けします。

ランキング

人気のある記事ランキング

【カメラ部】投稿写真ギャラリー 2017ー18冬季(12〜2月)

毎月1名様限定、投稿写真をTシャツに特別加工してプレゼント!