サブロー(右)の引退セレモニーでは花束を渡した=QVC

 黙々と汗を流した。誰もいないマリンのウエート場。そこに来年でプロ24年目を迎える福浦和也内野手の姿があった。重い負荷の器具を使ったものもあれば、柔軟性を重視したメニューもある。その一つ一つを丁寧に行っていた。広い空間には、ベテランの呼吸をする音だけが響き渡っていた。一通りのメニューを終えると、深く息を吐いた。そして、静かに自分自身に話しかけるように切り出した。

 「自分が最後になるとはね。みんな、いなくなったなあ。こればっかりはしょうがないことだけどね」

 今シーズン限りで1歳年下のサブローが現役を引退した。これで、31年ぶりの日本一を果たした2005年の優勝を経験した1軍メンバーはチーム内に福浦を残すのみとなった。その年に入団をしてかわいがっていた大松尚逸外野手も、戦力構想から外れた。まだ他球団でプレーをしている選手はいるが、マリーンズ内であの感動の瞬間を知る選手は一人となった。誰もいなくなったウエート場で、思わず寂しさがこみ上げた。みんな、ここで一緒に汗を流していた。チームを強くしようと頑張っていた。しかし、今残るは自分一人。この現実こそがプロの世界であることは重々、承知をしている。もちろん、そのような気持ちに浸るつもりはない。だから、まだ来季に向けた本格的な始動をしていない今。だれもいない空間で、この一瞬だけ一緒に闘った仲間たちのことを思い、天井を見上げた。

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 サブローとの別れは突然、訪れた。夜、遅い時間。突然、携帯電話でその旨を伝えられた。球団から発表をされる少し前のことだった。同じ高卒でプロ入り。1歳年下で一緒にいる時間は多かった。寮生活をしていた頃はよく部屋に遊びに行った。時にはサブローが部屋にいなくても部屋に入って、くつろいでいた。そういう仲だった。「部屋では一緒にテレビを見ていたかなあ。お笑いなどのバラエティーとか。もう、弟みたいな存在。自分にとっては特別だった」。だからこそ引退試合は特別な思いで見守った。「アイツの泣いている姿を見て、オレも涙腺が緩んだ。号泣したいぐらいだった」。試合が終わり、セレモニーが始まると、直接、花束を渡した。肩に手を当てると「お疲れさん。ありがとう。サブはオレにとって兄弟だよ!」と話しかけた。そしてお互い、涙した。

 「プロ入りして、うれしい時も、つらい時も一緒だった。今年はファームでも一緒にいる時間も長かった。よく野球の話をしたなあ。打撃の話が中心だったけどね。フォームの話で、ああでもない、こうでもないってよく議論をぶつけあっていたよ」

 背番号「9」はそんな先にユニホームを脱いだ仲間たちの思いを胸に、2017年シーズンに向けて新たな一歩を踏み出す。今は週に6日ほどウエートとランニング中心のメニューを消化。今年、体重が少し落ちた反省から夜、寝る前にプロテインを飲むなどしてビルドアップも心がけている。

 「おかげさまで、まだ動ける。肩も問題ない。目も速いボールを見極められているし、しっかりとボールについていけている。今はやることをしっかりとやって、万全の準備をして備えるだけだよ。支えてくれる人、応援してくれる人、仲間たちのためにもね」

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 来季、42歳を迎えるが日々の努力の積み重ねでつくり上げてきた体は健在だ。今シーズン、手応えを感じた一打もあった。8月4日のファイターズ戦(マリン)。八回に榎下の140キロ高めのストレートをバットに合わせると、流すように左ポール際にはじき返した。打球はグングンと伸び、フェンスに当たる二塁打。今季2度目の猛打賞を放った。流し打ちでのフェンス直撃の強烈な一打。手には確かな手応えが残った。

 「2000本安打?それはまったく頭にないし、それを目標にプレーをしてはいない。それは今も昔も変わらない自分のスタイル。気持ちは一つだね。マリンで優勝をしたい。2回、日本一になったけど、いずれもビジターだからね。オレはマリンのファンの前で胴上げをしたい。なんとしてもしたい。その思いしかないよ」

 長いトレーニングが終わって、帰宅するときには昼すぎから降っていた雨はやんでいた。ふと思い出したかのようにつぶやいた。「来年はとり年か。日本一になった05年も、とり年だったなあ。あれから12年。一回りか。早いなあ。本当に早い」。年輪を重ねた男が温和な表情を見せた。ファンのために。マリンで最高の瞬間を手にするために。大ベテランは今年もまたいつもと変わらぬ精力的なオフを過ごす。24年目のシーズンに向けた鍛錬の日々は始まっている。

 (千葉ロッテマリーンズ広報 梶原紀章)

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