塁上でタッチする鳥越ヘッドコーチ(左)と鈴木。鈴木は熱きコーチとの出会いは「とても大きい」と話す

 それは不思議な光景だった。試合開始直前の出来事。真顔で戦士たちは歌いだした。1日のホークス戦(ヤフオクD)。ベンチ前で行う恒例の円陣でのことだ。鈴木大地内野手の「せーの」の掛け声に、全員が「ハッピーバースデー、トゥーユー」と声を合わせて歌いだした。あえて笑わずに真顔。下を向いたまま歌う男たちの姿にこの日、誕生日を迎えた鳥越裕介ヘッドコーチは円陣の真後ろでうれしそうに笑っていた。

 「練習前からみんなで『きょうは鳥越ヘッドの誕生日だから、なにかしよう』という話になっていて円陣でハッピーバースデーと歌おうということになった。驚いてもらいたいと思っていたので、練習中は誕生日ということは知りませんよという雰囲気をあえてみんなで醸し出して、円陣の時に一斉に下を向いたまま歌った。大成功でしたね。『ビックリしたよ』と喜んでくださった」と鈴木はしたり顔で話した。

 それはチームのためにいつも全力で大声を出し、時には厳しく叱責(しっせき)し、またある時は全力で鼓舞する熱きヘッドコーチを選手たちが慕っていることを象徴するようなシーンだった。この演出のアイデアを出し、自ら切り出した鈴木は続けた。

 「あの人との出会いはとても大きいと思う。今年、ホークスからヘッドとしてマリーンズに来ていただいて感謝をしている。野球人生が変わるような出会い。いろいろなことに気付かされるキッカケを毎日いただいている。ホークスで現役を過ごされ、ホークスでコーチになられて実績を重ねられた方で、それを捨てて縁のないマリーンズに飛び込んできてくださった。普通に考えてすごい覚悟が必要だと思う。本気でボクらに向き合ってくれていることを感じている」

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 鈴木には忘れられない出来事がある。それはあるデーゲームを終えての球場内のウエート場でのことだ。いつもは乱雑に靴が置かれている入り口で靴が奇麗に並べられていた。いつもと違う雰囲気に不思議に思いながらも奇麗に並べられているのを見て思わず、その横に自分が脱いだ靴を丁寧に置いた。するとウエート場の奥深くから大きな声が響いた。「そうだろう! 当然、そうなるわな」。鳥越ヘッドコーチだった。ウエート場の靴置き場に選手たちが靴を脱ぎ捨てている光景が我慢できず奇麗に並べ直した張本人だった。「野球だけではない。私生活での普通の事ができなきゃダメ」。鈴木はヘッドコーチがいつも口酸っぱく言っている言葉を思い出した。直接的に「ウエート場に入るときは脱いだ靴を奇麗に並べましょう」と言われたわけではない。しかし、こうやって目の前に整然と並べられている光景を見てハッとさせられた。一人の社会人として当たり前のことに気付かずに行動していた自分が恥ずかしくなった。そしてその瞬間、もう一つ昨年、目の当たりにした同じような光景が突然、交差した。

 それは昨年7月にZOZOマリンスタジアムで行われたオールスターゲーム。鈴木が練習を終えて一塁側ロッカールーム内にある風呂場に入ろうと脱衣所に向かうとホークスの内川聖一内野手が選手たちのスリッパを奇麗に並べている姿を目にした。

 「内川さんのようなスーパースター選手がすごいなあと思いました。でも今回の鳥越さんの姿を見て、『あっ!』と思った。二つの光景がつながったというか。これは鳥越さんがホークス時代からずっと言われてきたことなのだと。それをホークスでは内川さんとかが率先して行っているのだと。それを見て若い子たちも見習う。大事なのはそういうことなんだろうなあと思いました」

 鈴木はウエート場でのこのやりとり以降、靴を脱ぐ場所で率先して整理し並べるようにした。誰に伝えたわけでもない。それから数日すると自分がやらなくても自然と靴やスリッパが並ぶようになっていた。鳥越ヘッドが当たり前のことを自ら実践をして見せた姿を見て気が付いたように、鈴木が率先して行うことでまた一人誰かが気が付き、そして広がりを見せた。とても小さなことだがうれしくなった。

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 今年、選手たちのベンチでの声は一段と大きく、活気にあふれている。それは鳥越ヘッドが率先して伝えている当たり前のことの一つでもある。途中交代してベンチに戻る選手に声を掛ける。「ここまでオマエのためにみんな大きな声を出して応援し励ましてくれた。さあ、次はオマエの番だ。大きな声を出してグラウンドにいるみんなを鼓舞しよう」。自分がどんなにミスをしていても、凡退をしていてもベンチにいる時は必死に声を出しチームを応援する。それが基本姿勢だと選手たちに伝え、ここまでチームを乗せてきた。

 12日。前半戦が終了した。40勝38敗2分け。2016年以来となる貯金ターンを決めた。十分にリーグ優勝を狙える位置につけている。活気あふれるベンチ。諦めずに貪欲に立ち向かっていく姿。絶えることのない集中力。今年のマリーンズは一味も二味も違う。その中で鳥越ヘッドの存在は大きい。小さな当たり前を積み重ねて成長を遂げた井口マリーンズはここからシーズン終盤に向けて大輪の花を咲かせていく。

(千葉ロッテマリーンズ広報 梶原紀章)

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