富士山を背に、今季スローガンのボードを掲げる鈴木

 金時山から発生した霧によって視界は遮られていた。神奈川と静岡の県境にある、この山間の町で鈴木大地内野手は生まれ育った。足柄峠を中心とした山地で早朝に霧が発生するのは珍しいことではない。目の前の景色がよく見えない中、鈴木はしっかりとした足取りで慣れ親しんだ道を歩いていた。年末、地元の静岡県小山町に帰省をした。生まれ育った実家で、束の間のオフを過ごした。いつも応援してくれる後援会の方々、子供の時から知る近所の方、親戚へのあいさつ。そして巣立った小学校を訪問するなど精力的に活動をした。一通りの行事が終わり、ぼうっとしていた時だった。ふと子供の時の思い出の品々がまだ実家に残されていることに気が付いた。目を通した。文集や日記、いろいろなものが出てきた。時が経つのを忘れて見入った。

 「懐かしかったですね。いろいろな思い出がよみがえった。うれしかったこと、つらかったこと。プロ野球選手に憧れ、夢見ていた子供のことを思うと、今のオレは本当に幸せだと思いました。また原点に戻って、しっかりとやらないといけないという気持ちになりました。せっかく子供の時に夢見た職業になれたのだから、悔いが残らないようにやらないといけない」

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 物思いにふけっている時、ふと集めていた野球カードが目に入った。いろいろなカードがあった。そのすべてを懐かしそうに見た。メジャー選手のカードもあれば、往年のマリーンズのスター選手のカードもあった。その中で1枚のカードに目が留まった。それは伊東勤監督の現役時代のカードだった。じっと眺めた。

 「子供の時にこのカードを手にした自分は、まさか将来、この人の下で野球をやることになるなんて思ってもいないですからね。縁があったんですね。今、こうして伊東監督と一緒に野球をやらせていただいている。この縁を大事にしたいです」

 「これ、千葉に持って帰ろう」。その1枚だけを手に取ると、大事そうに帰り支度の荷物の中へと、しまい込んだ。指揮官の下で野球をやらせてもらい、今年で4年目を迎える。その1年目に遊撃のレギュラーに抜てきされた。若くしてキャプテンに指名をされるなど、高い期待をかけてもらった。だが、その熱い期待に対して十分に応えているかというと、まだそうではない。そう思うからこそ、強い決意で新シーズンに挑む。

 「絶対に伊東監督を胴上げしたい。今年の目標はそれ。チームスローガンに『熱き心で』とあるように、チーム一丸でその思いを共有して優勝したい」

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 気持ちを高ぶらせ、実家を飛び出すと、濃霧はいつの間にか消えていた。そして、雄大な山が、当たり前のように目の前にそびえ立っていた。生まれた時からずっと、自宅を一歩出ると力強く、その姿を見せ、鼓舞してくれる。鈴木大地内野手は富士山とともに育った。だから、これまで日本の象徴といえる山を特別な感情で眺めたことはなかった。ただ、この日は違った。強いメッセージを放っているように感じた。

 「日本一になってみろ。日本一になって、プロに入ってからの恩師でもある伊東監督を胴上げしてみろと言っているように感じますね」

 1月、自主トレが始まった。もう一度、原点に戻って、肉体改造に取り組む。よりパワーアップした形で、新しいシーズンに挑む。あの時、富士山の麓での決意が、鈴木を練習へと駆り立てる。

 鈴木が実家でじっと眺め続けたものがもう一つ、あった。中学時代のメモ帳。2年生の時の記述には、こう記されていた。「全国リトルシニア選抜大会出場も試合出場はなし。その後、新チームでショートに指名されるが、エラーをし、コーチから『チーム歴代史上最低のショート』と怒られる」。背番号「7」は、その屈辱を原点に、猛練習に励み、プロへの道を切り開いた。そして今、もう一度、その原点に戻る。指揮官を胴上げするため、さらなる鈴木大地になるため。2016年が幕を開けた。

 (千葉ロッテマリーンズ広報 梶原紀章)

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