昨年6月9日の古巣・阪神戦ではお立ち台に立った

 止めどなく涙があふれた。高浜卓也内野手は、あの日のことを今でも鮮明に覚えている。2011年3月。タイガースにFA移籍した小林宏之投手の人的補償としてマリーンズへの移籍を言い渡された。突然のことに戸惑い、タイガースでの今までの思い出が次から次へと脳裏をよぎると、たまらず号泣した。

 「マスコミの前では感情を出すことはありませんでしたけど、ロッカーに戻ってから号泣しました。いろいろな思いが湧き上がって、涙が止まらなくなった。あんなに泣いたのは後にも先にもありません」

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 希望に満ちあふれたシーズンだった。キャンプ2軍スタートも、2月中旬に高知県安芸市で行われた1、2軍合同の紅白戦で結果を出した。1試合目が3打数3安打、2試合目が3打数1安打、そして3試合目が3打数2安打。3日間3試合で9打数6安打の大活躍で、1軍首脳陣の目に留まった。そこから1軍帯同。高知県春野市で行われたバファローズとのオープン戦では三塁でスタメン出場をすると、3打数2安打。プロ入りして3年間。高校生ドラフト1巡目指名で期待をされて入団したもののけがに見舞われ、一度も1軍出場のなかった選手は、再び注目を集める存在になっていた。高知でのオープン戦を終え、1軍と共に帰阪。甲子園に足を運ぶと、1軍ロッカーに初めて自分の名前が貼られた場所が用意されていた。たまらなくうれしかった。

 「1軍に上がるのは初めてだった。うわー、自分のロッカーがあると感動しました」

 ロッカーに集合をして午後は西宮市内の神社に必勝祈願のために移動。それがその日の予定だった。新しいスタートに感情が高ぶっていた高浜に予期せぬ事態が起きたのは、その直後のことだ。マネージャーに呼ばれた。「球団事務所に行ってくれ」。最初はことの重大さがよく分からなかった。「必勝祈願には行かなくていいから、事務所に行ってくれ」。その一言で頭が真っ白になった。そして事態の重さを理解した。

 「初めて1軍に上がって、初めて甲子園のロッカーに自分の場所ができた日でした。その日にチームと別れの日が来るとはさすがに思わなかった。気持ちの整理がつかなかったのがあの時の正直な気持ちです」

 もちろん、チーム内でも2月にマリーンズからFA移籍をしてきた小林宏之投手の人的補償は誰かといううわさで持ち切りだった。一部報道で高浜の名前も挙がっていた。しかし、先輩選手から「先に報道で名前が出ると大体、ないよ」と言われて安心をしていた部分があった。なによりも、3年間、けがをして1軍に一度も出ていない選手が選ばれるとは思えなかった。数奇な運命を感じた。紅白戦やオープン戦で結果を出したことで、結果的にマリーンズの目に留まることになったのではないかと思った。

 「今年ダメだったら、クビになると思っていた。だからキャンプからアピールをした。紅白戦で必死に打って、初めての1軍のオープン戦でも結果を出そうと頑張った。そしてようやく憧れの1軍で、甲子園に戻ってきた。いろいろなことが頭によぎりました」

 ロッカーで先輩選手たちにあいさつを交わした。「必要とされているから選ばれた。これはチャンスだ。1軍で活躍をするチャンスだよ」。当時、現役だった金本知憲外野手(現タイガース監督)ら、憧れの先輩選手が声を掛けてくれた。その瞬間、我慢をしていた感情があふれ出た。人目をはばからず、泣いた。涙というものが、こんなに止めどなくあふれ出ることをその時、初めて知った。

 「あの時、先輩たちが励ましてくれた言葉はその後の自分の支えとなっています」

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 高浜は運命を受け入れた。1週間ほどで準備を整えると、気持ちを入れ替え新しいチームに合流した。その後の11年5月25日。甲子園で行われたタイガースとの交流戦。2番遊撃でスタメン出場をした高浜は七回に先頭打者で打席に入ると久保田智之投手のストレートをはじき返した。打球は中堅を超えた。フェンスに直撃する二塁打。あわやの一発を古巣相手に見せ、チームも勝利した。試合後、いろいろな感情がこみ上げてきた。

 「頑張っているところを見せることができた。あの時はうれしくて、涙が出そうだった」

 時は流れた。高浜はプロ9年目の昨シーズン、53試合に出場をしてプロ初本塁打を含む3本塁打を放った。3号は古巣タイガース相手(6月9日、守屋功輝投手から)だった。腰痛に悩まされながらの一年ではあったが、確実に着実に結果を出しつつある。

 「今年はプロ10年目。やれることはすべてやって悔いのない一年にしたい」

 自主トレではけが予防のためヨガをトレーニングに取り入れるなど工夫を凝らした日々を過ごしている。背番号は「00」から「32」に変更した。あの日、涙が止まらなかった若者はすっかりマリーンズに溶け込み、チームには欠かせない存在となっている。運命に身を委ね、たどり着いた節目のシーズン。目指すは悲願のレギュラー取り。縁に導かれた男は、自分を評価し、見出してくれた恩に報いるべく、10年目のキャンプに挑む。

 (千葉ロッテマリーンズ広報 梶原紀章)

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