【いすみ鉄道 社長コラム 自己流ビジネス論 】

同じ地域の景色でも、車から見るのと列車から見るのとは違います。
 
地元の人がたまに列車に乗ってみると、皆さん「景色が違って見える。」とおっしゃいます。
同じ景色、見慣れた景色でも、列車の窓から見ると不思議と違って見える。
これが鉄道の持つ魅力の一つだと思います。
 
では、どうして違って見えるのでしょうか?
 
「そりゃ、ゴトンゴトンという列車の音があるからだよ。」とか、
「やっぱり、旅情だからじゃないの?」
などと、皆さんお考えだと思います。
もちろんそういう情緒的な、はやる気持ちがそう見えさせるというようなことはあると思います。
そして、そういうことが旅の醍醐味であり、だから汽車旅は魅力的なのでありますが、
私が考える車と鉄道の決定的な違いがあるんです。
 
それは、町というのは道路に沿って出来ていて、家というのは道路に面して、道路に向いて建てられているということです。
だから、車で走っていると、町の表側を見ているんです。
 
ところが、町も家も鉄道の線路に向いて作られてはいませんから、例えば商店が線路に向いていたり、住宅の玄関が線路に向いていたりすることはありません。
ということは、鉄道の車窓からは町の裏側が見えるんです。
だから、そこには人々の営みがあり、暮らしを感じることができる。
これが鉄道車窓風景の大きな大きな特徴です。
 
私たちが旅をするときは、例えば神社仏閣や有名な観光地へ行くときに、交通機関として利用するのは鉄道もバスもマイカーも同じです。
でも、それは手段であって、その単なる手段として考える場合は、できるだけ安価であったり、便利であったり、快適であればそれで良いわけですから、そういう価値観では鉄道は不利な存在です。
だって、時間にならなければ来ないし、座れるかどうかわからないし、運賃は高いし。
 
でも、目的地へ向かうための手段としてばかりでなく、乗ることそのものが目的だと考えれば、窓から見える景色が車とは全く違うわけですから、当然新しい発見もある。地域の人たちが代わる代わる乗って来ては降りて行く。
線路から見える家々では、洗濯物が干してあったり、農作業中だったり、老人がお孫さんと遊んでいたり、そういう地元の人たちの日常を垣間見ることができるのですから、車で道路を走っている時に見える景色とは全く違うのです。
 
これが、鉄道の旅の持つ醍醐味の一つだと私は思います。
 
列車は速いし、車と違って自分の意志で停まることはできませんから、個人住宅をのぞき見するような趣味には使えませんが、弁当を食べたり、お酒を飲んだりしながら、揺れる列車の窓からそういう風景をボーッと眺めるだけで、都会人にとって見たら、ふだんのストレスが消えていくというのは間違いないことだと思います。
そして、そういうことが、新幹線ではなくて、各駅停車の旅の大きな魅力であります。
だから、ローカル線の列車は窓が開かなければダメなんです。

▲民家の軒先を走る都電。 1977年 豊島区鬼子母神付近。

私の友人の青森恒憲さんが撮影した今から40年前の都電荒川線です。
 
この写真を見て、皆さんどうお感じになりますか?
 
味があるでしょう。
人々の生活を感じるし、なんだかほのぼのとしますね。
 
それはなぜか。
40年前の風景は、今の人たちから見たら非日常だからです。
そして、その非日常を体験できるのが、今の時代の旅なのです。
 
でも、私はこの写真をはじめて見たときに、素直に「いいなあ」とは思えなかったんです。
なぜなら、私にとってこの景色は非日常ではないからです。
 
1977年といえば私は高校2年生でしたが、このあたりはうちのお墓があるいうなれば地元。
私の家も貧乏でしたし、当時は地域全体がこんな感じだったから、この写真を見て思い出すとあまり良い思い出がない。
今以上に金持ちと貧乏人が、住んでる家、来てる服で判断できた時代でした。
そういう時代に多感な高校生だった私としては、もし、自分の家の近くでカメラを構えている人がいたら、「撮られたくない。」という気持ちが先に立ったでしょうね。
自分はカメラを持って、遠くへ出かけ、人の町で、人の家の裏手の線路で写真を撮っていたにもかかわらず、自分の町で知らない人が同じことをしていたら、「いやだなあ。」って気持ちになると思うのです。
 
今、外国人観光客年間4000万人を国の政策として目標に掲げています。
日本人の1泊以上の観光客は年間2億人います。
1人あたり年間2回、1泊以上の観光をしていることになります。
そういう時代になって来て、地域がどんどん疲弊している状況の中、日本全国の田舎が、その4000万人の外国人と2億人の日本人に、どうやって自分たちのところに来てもらって、お金を落としてもらうかを考えなければならないことはまぎれもない現実です。
 
だとしたら、こういう洗濯物を干してあるような光景でも、観光客が喜んで写真に撮ってくれるような光景であれば、私は資源になると思います。
だとすると、地域の人たちが乗り越えなければならないのは、そういうありのままを見られることの抵抗感をどう無くすか、なのではないでしょうか。
 
農作業の風景や漁師さんが浜で網をつくろっている姿など、被写体としたらこれ以上旅行者が喜ぶものはありません。
でも、農家の人や漁師さんにしてみたら、そんなところは見られたくない。
これをどう乗り越えるかなんだと思います。
 
そういう、日常生活では価値に気付かないものが、非日常を求める観光客にとっては、わざわざ行ってみようと思えるような、大きな観光資源であるということにできるだけ早く気付いて、そういう認識を持って行動を始めることが、地域が成功する秘訣なのだと私は考えます。
 
なぜなら、よーいドン! ではありませんから。
フライングしても構わないのです。
できるだけ早くスタートを切ることが大切なのであります。
 
もし、自分が観光客だったら、いつもと違う地域へ行ったら、何を見たいか。何がしたいか。
お客さんになった目で考えてみると、意外と素晴らしい資源が地域に眠っていることに気が付くと思います。
 
何しろ、日本の田舎には石ころなんて落ちていないんです。
落ちているのは全部宝石の原石なんですから。
 
問われているのは、どうやって磨くかということなのです。

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