【千葉魂】レジェンドの原風景 井口、感謝胸に引退試合へ
千葉ロッテマリーンズ広報・梶原紀章の人気コラム「千葉魂」です。
レジェンドにも原風景はある。9月24日のファイターズ戦(ZOZOマリンスタジアム、午後2時試合開始)をもって21年にも及ぶ現役生活に幕を閉じることになった井口資仁内野手にとって忘れられない思い出の一つに中学校時代に自宅で母とマンツーマンで行ったティー打撃がある。
「毎日1時間近くは、やっていたかな。母は野球経験はないのだけど、いろいろとアドバイスをしてくれた。体の開きが早いとかね」
それはチームの練習を終えてから始まるのでいつも夜遅かった。ボールが隣の家に飛んでいくこともあるし、なによりも硬球で打つと音が近所に響く。だから親子で考えた。そして編み出したのが野球のボールではなくバドミントンのシャトルを至近距離から母に投げてもらって打つ練習だった。
「シャトルをちゃんと打とうと思うと、すごく難しい。当てる面もすごく小さいしね。なによりも打っていると当然、シャトルの羽が壊れていく。するととんでもない変化をするようになって、さらに打つのが難しい。今思うとすごい練習をしていたよね。でも、とてもいい思い出」
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当初の狙いは近所迷惑にならないための配慮。ただ、この練習を繰り返しているうちに別の効果を感じられるようになった。不規則に変化するシャトルをバットの芯で捉える作業が、バットコントロール術を高めた。小さく軽いシャトルを振り切ることでスイングスピードもアップした。親子の地道な練習は高校まで続いた。そしてプロに入り、メジャーでも大活躍し日本球界を代表する選手となった今でも母は、ほとんど全ての試合をテレビや現地で観戦をしてくれて、アドバイスをくれる。LINEにはいつも母からのメッセージが入っている。親子だから容赦はない。「フライばっかり打って!」などと苦言も多いが、それがまたうれしかったりする。
「両親には本当に感謝をしているよ。いつも最高のアドバイスをくれる。誰よりも自分がどんなメンタルでプレーをしているのかを一番、理解しているからね。いろいろとサポートをしてもらった」
だから、昨年、誰よりも早く翌年のシーズンをもって引退をすることを知らせた。両親からは「やっとゆっくりとビールを飲みながらプロ野球観戦ができる」と言われた。しんみりとなるのではなく笑顔で話し合えたことがまた心に染みた。6月20日の引退会見後も連絡をもらった。「福岡、アメリカ、千葉といろいろなところで野球を見ることができました。いろいろなところに連れて行ってくれてありがとう」。独特の表現で感謝の言葉をくれた。
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両親への感謝の想いをいつも忘れることなく歩んだ21年間だった。実家に近いメットライフドームで試合があるときは必ずといっていいほど実家に寄った。実家で家族と会話を交わし、墓参りをして神社に寄ってから3連戦に挑む。それがルーティンだった。なによりも心が落ち着いた。
「周りの人がいて自分がいる。いつもどんな時も感謝の気持ちを忘れずにプレーをしようと心がけた。だから、最後も感謝の気持ちをもってプレーをしたい。そして最後の最後はいい形で終わることで恩返しをしたいと思っている」
長く濃かった現役生活が間もなく終わる。多くの野球ファンに感動を与え続けた日々は、井口にとっては感謝の想いを伝える毎日でもあった。最後の最後もまた最高の形で想いを伝える。デビュー戦、満塁本塁打の鮮烈デビューの男の最後の瞬間も見逃せない。
(千葉ロッテマリーンズ広報 梶原紀章)
24日午後2時から行われた井口の引退試合の記念ロゴ